アメリカ育ちのドイツ車
唯一無二の味わい
●フォルクスワーゲン ビートル
約50年という長きにわたり、テリー伊藤さんのそばにはいつもビートルが……。
「心のふるさと」だと言い切るそのクルマには、いったいどんな思い出があるのでしょうか。
Interviewer: Koichiro Okamoto (Motor Joumalist)
Photographs: Katsuaki Tanaka
26歳で新車で買って50年 ずっとそばにビートルが
かれこれ50年、ずっと僕のそばにはビートルがいる。今でも1台+αあるよ。
最初から話すと、「ラブ・バッグ」というディズニー映画に、魂を持ったビートルが出ていたんだ。笑ったり怒ったり、自動でドアが開いたりして、レースに出て勝つという、ファンタジーでハッピーな内容なんだけど、ディズニーなので制作されたのはもちろんアメリカだよ。
ビートルがすごいなと思うのは、もともとヒトラーがポルシェ博士に作らせたクルマだから、もっと戦争のイメージがあってもおかしくないのに、ぜんぜんそうならず、むしろ楽しさの象徴のような存在になったところだ。ドイツ生まれだけどアメリカ育ち。アウトバーンよりもカリフォルニア。サーフボードが似合う。
そこは他の欧州車とは一線を画している。60年代の頃にサーフィンが流行りだすと、アメリカの若者たちがビートルをアレンジして、ボードをビートルに載っけて走る姿は、まばゆいばかりのトレンドになった。
だから日本人が好きなビートルも、ドイツじゃなくてアメリカの匂いがする。まさに雑誌のポパイの世界だよ。湘南がよく似合う。冬には板を後ろに立ててスキー場に向かう姿が絵になる。RRでトラクションがあるからチェーンを付ければちゃんと雪道も走れたんだ。
そんな世界観に憧れて、僕も26歳のときに初めてビートルを新車で買った。当時ヤナセに入るというのは今以上に敷居が高かったけど、それはもうときめいたものだよ。
もうひとつ僕の中で憧れがあって、新婚旅行に一番好きなビートルで行きたいと思ったんだ。それで、ビートルで加山雄三さんが経営していた茅ケ崎のパシフィックパークホテルに行ったものだよ。
最初のビートルに3年ぐらい乗った頃に、インジェクションになったり、ビートルの生産が終わるというアナウンスがあったりしたので、それならと思って、ほぼ最終モデルに乗り替えたんだ。色は両方とも白で、今乗ってるのも白だよ。
新世代ビートルの2台は 間違いなく今が底値!?
それに7年ぐらい乗ったあと別のクルマに買い替えて、しばらくビートルは手元になかったんだけど、やっぱりビートルは僕にとって特別なクルマ。あの50馬力しかないフラット4エンジンも僕の運転技量に適していたし、心のふるさとだと思って、どうしても欲しくなって、また買ったんだ。
錆びついたメキシコ製のビートルとかフロリダで見つけた走行距離わずか5000㎞の黒のコンバーチブルとか。
あとは、軍用車みたいなキューベルワーゲンや、ゴルフカートみたいなスイングといったビートルを改造した変わりダネも持っていた。手放したことを後悔しているよ。
今、手元にあるのはビートルベースのデューンバギーと「1303」だよ。フロントウインドーがオリジナルのフラットではなくてラウンドしていて、愛好家からは邪道と言われるけど(笑)、僕には1303がよかった。
昔のビートルだけじゃなくて、ニュービートルも3年ほど持っていたよ。イエローの日本上陸第1号の並行輸入車だ。でもザ・ビートルにはまだ乗ってない。別に嫌いなわけじゃないけど、なんとなく縁がなかった。
ザ・ビートルはなんだかポルシェっぽい感じがする。それはおそらくVWの人たちがファンタジーを追求してニュービートルを作ったけど、走りがよくないという批評を受けて反動で作ったのがザ・ビートルじゃないかと思うんだ。
いずれにしてもニュービートルもザ・ビートルも、もし今、気になる中古車があったら絶対に買いだよね。中身がちゃんと現代的で、ビートルならではの世界観が味わえて、あと10年もしたら値段が絶対に爆上がりすると思うんだ。
とくにニュービートルなんて、30万円台の個体もざらにある。それでも程度が悪そうな印象がぜんぜんなくて、荒く乗られたはずがないという感じがするものばかりだ。間違いなく今が底値だと思うよ。
歴代ビートルをご紹介!
フォルクスワーゲン ビートルの変遷
●タイプ1(1945年※~2003年)
※本格的な大量生産開始
第2次世界大戦当時から21世紀初頭(本国では1978年)まで、累計で実に2152万9464台が生産された。さまざまなバリエーションが存在するが、エンジンは一貫して空冷の水平対向4気筒をリアに搭載した。なお、一部地域を除いて「ビートル」が正式な車名になったことはない。
●ニュービートル(1998年~2010年)
当時のゴルフ4などのプラットフォームをベースに開発。円弧を多用したスタイリングをはじめ、メーターまわりのデザインや車内の「一輪挿し」など、タイプ1に由来するモチーフが内外装の随所に見受けられた。
●ザ・ビートル(2011年~2019年)
メカニズム面ではゴルフ6などとの共通性が高い。車高がやや低くされ、テールにかけてのラインがより丸みをおびた。ギターメーカーのフェンダーとのコラボなどいくつかの印象的な限定車が設定されたのも特徴。
オークマン2024年8月号掲載記事