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【オークマン 24年9月号】岡本幸一郎の思い出の車列伝




知らない人はいない

独特のフォルム


●フォルクスワーゲン ビートル


約80年に及び、その愛らしいデザインが多くの人々を魅了し続けてきた、ビートル。

そんな唯一無二の個性を、モータージャーナリストが解説します。


Text : Koichiro Okamoto(Motor Journalist)


ヒトラーの依頼を受けて ポルシェ博士が設計した


ご存じの人も多いだろうが、「ビートル」という名称は、一部で限定的に名付けられたケースはあったようだが、いわゆるクラシックビートルの「タイプ1」の時代においては、正式な車名ではなくニックネームで、「フォルクスワーゲン」というのは「国民車」や「大衆車」という意味だ。

 1930年代、自動車は富裕層のためのものという考えが当たり前だった中で、「国内の道路網を整備し、全国民が自動車を所有する」という理想を掲げ、アウトバーン計画とともに国民車構想を打ち出したヒトラーの肝いりで、ダイムラー・ベンツ出身のフェルディナント・ポルシェ博士が設計したのが、タイプ1のルーツとなる。

 現代の乗用車とは全く異なる、リアに空冷水平対向4気筒エンジンを搭載してフロントにトランクを配し、4人の大人を乗車できるようにした合理的なパッケージングは、当時としても非常に先鋭的だった。

 特徴的な流面形の愛らしいデザインも、空力と利便性と操縦安定性などを両立させるための理由があってのものだ。低価格かつ低燃費で、出力は低いがタフで故障しにくく、100㎞/hで巡航できる実力の持ち主でもあった。

 世界大戦が本格化する前にプロトタイプは完成していたが、本格的に生産されるのは戦後になってからのことで、欧州の各国をはじめ北米や中南米、日本などにも早くから輸出された。

 本国での生産は1978年に終了したが、中南米ではその後も現地生産され、最終となるメキシコでは2003年まで続けられた。その間モデルチェンジは一度もしていないが、何度か大きな変更があり、年代によってデザインも違っている。



ゴルフをベースに復活し 新たな取り組みにも挑戦


タイプ1の生産が続いていた90年代半ば頃から、往年のデザインを受け継ぐ次世代モデルのコンセプトカーが自動車ショーで姿を見せるようになり、多くのファンが色めきたった。

 ほどなく現代に蘇った「ニュービートル」の生産が98年から始まり、翌99年には日本にも導入された。

 4世代目ゴルフをベースとしており、象徴的な空冷フラット4をリアに積むタイプ1とは一転して、メカニズム的には至って常識的な内容となった。

 ただし、円弧のモチーフを多用した特徴的なスタイリングを実現するために、いろいろ無理をしたことは乗ると明らかで、運転席より前方が異様に長いことや、後方の見切りが悪かったり、後席の居住性やリアのトランクの積載性も芳しくなかったりしたのは否めない。

 それでもこの容姿に惹かれる人は少なくなく、そこそこ人気を博した。日本では輸入車の月販台数でベスト10に入ったこともあるほどだ。

 2011年にモデルチェンジした「ザ ・ビートル」では、前述の不満点が大幅に改善されるとともに、メカニズム的にも新しいものを積極的に取り入れて大幅に進化していた。

 クルマ自体がかもしだす雰囲気も、女性向けというイメージの強かったニュービートルに対し、ザ・ビートルは男性が乗っても絵になるクルマになったように思えた。

 さらには、ギターメーカーのフェンダーとのコラボや往年の復刻版のほか、その年代を象徴するようなアレンジを施したり、バレンタインに合わせたデコレーションを施すなど様々な印象的な限定車や、期間限定でオーダーメイドを受け付けるなど、かつてない取り組みが見られたのもザ・ビートルの特徴だ。

 残念ながら2019年をもって生産終了となり、タイプ1から数えて約80年に及ぶ歴史に幕が下ろされたわけだが、当時、HPには「Good Bye」ではなく「See You!」と記されていたのを思い出す。


モータージャーナリストの視点!

旧いクルマでありながらタイプ1はそこそこ流通していて、価格も特別な個体を除けば200万円を超えていない。ニュービートルは年式相応に流通が減少傾向で相場も低めだが、反転する可能性もあり現在が底値かもしれない。ザ・ビートルは流通量が豊富だが、絶版車らしく高年式で程度のよい個体はけっこう割高。バリエーションは「Rライン」が多く、数ある限定車はオーナーが手放さないせいかまだあまり流通していない。後継モデルの情報もないことから、高めの相場が続きそうだ。



各世代のウリはここだ!

 

タイプ1(1945年※~2003年)

※本格的な大量生産開始

累計2,152万9,464台が

生産された歴史的名車


● 空冷水平対向OHVエンジンをリアに搭載

● エンジン排気量は1.0L~1.6L

● いくつものバリエーションと派生車が存在


2,000万台目のラインオフの様子。伝説的大衆車ともいえるタイプ1は、イタリアのギア社のデザインしたボディをドイツのカルマンで生産した「カルマンギア」をはじめ、派生車種は枚挙にいとまがない。


中古車小売り価格帯

150万円~800万円

 


ニュービートル(1998年~2010年)

現代のテクノロジーで容姿を再現


● ゴルフ4をベースに開発

● 内外装で円弧のモチーフを強調

● 幌が初代と同様に畳まれるカブリオレ




円弧のモチーフを現代化したデザインが特徴。 室内でも大きな円形メータークラスターや、ステアリングホイール脇に設けられた「一輪挿し」といった、初代ビートルの時代のモチーフを流用。


中古車小売り価格帯

50万円~220万円

 

ザ・ビートル(2011年~2019年)

特別限定車The Beetle Dune,

オリジナルの系譜を継ぐ集大成


● よりワイドアンドローフォルムへ

● 直噴ターボエンジン+DSGを搭載

● ユニークな限定車をいくつも設定




2014年日本国内のフォルクスワーゲンでは初の試みとして、ザ・ビートルとザ・ビートル・カブリオレにユーザーからのオーダーメイドによる期間限定特別受注生産車「Create Your Own “The Beetle”」を展開した。


中古車小売り価格帯

55万円~350万円


 

オークマン2024年9月号掲載

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