2023年の振り返りからひもとく今後の可能性
特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長
中尾 聡さん
コロナ禍の暗いトンネルを抜け 。社会全体に明るい兆しが見え始めた2023年。
自動車業界にとってどのような一年だったのかを、自動車流通市場研究所(自流研) 理事長の中尾聡氏に総括してもらいます。
(このインタビューは、2023年12月初旬に行われています。)
▼目次
急激な供給体制の再整備も旺盛な新車需要を満たせず
2. 中古車流通
度重なる不正問題も業界に与えた影響は限定的
中古車輸出世界1位の座は今後しばらく揺るがない
1.新車業界
急激な供給体制の再整備も旺盛な新車需要を満たせず
――まず、2023年が自動車流通業界、特に新車業界にとってどんな年だったのか振り返っていただけますでしょうか。
ひと言で言うと、V字回復の年。これに尽きるでしょう。2020年以降、新型コロナウィルスのパンデミックは言うに及ばず、世界的な半導体不足、止まらぬ円安トレンドなど、自動車業界にとってはかなり厳しい事象が次々と降り掛かってきました。 この間、自動車生産では中国に大きく引き離され、新車販売も世界3位の座をインドに奪われてしまいました。 ですが、2023年はその遅れを取り返す勢いで、生産も販売も輪出も、急激に数字を回復させたのです。
――それでは、生産、販売、輸出それぞれの状況を詳しく教えていただけますか。
2020年にパンデミックが始まった頃は、工場が閉鎖されてしまったため生産台数は急激に落ち込みました。 その後、ワクチンの普及などで生産ラインは再開されましたが、 新車の生産台数は思うように伸びてこなかったのは皆さんご存じのとおり。 その、一番の足かせとなっていたのは半導体不足です。ただ、2023年に入半導体不足は回復傾向となりました。自動車メーカー各社が取り組んできた設計や調達の工夫も奏功し、最終的には前年比で14.2%増の895万台前後の生産台数となりそうです。
――需要に対する供給は完全に回復したのでしょうか。
いえ、前年の数字を大きく上回ったとはいえ、健全な指標といわれる1000万台には遠く及ばず、 パンデミック前の2019年の実績にも届いていません。それどころか、危険水域といわれる900万台も若干ですが下回ってしまいました。これは、国内外の需要に対して、未だ国内の生産ラインが完全な回復には至っていないことを示しています。
コロナ禍で生じた新車生産の損失は176万台といわれています。 これを短期間で回収しようと挽回生産するには、生産ラインを通常の1.5倍で回転させる必要があります。 半導体供給は回復し、生産ラインも体制は整っているのですが、いかんせん人員が足りていないというのが現状ですね。
――世界的に需要が高まってい電気自動車が、生産の後押しをするという見方は?
電気自車は、前年に対して倍増の10万台前後にはなりそうですが、あくまでも軽自動車中心であり、全生産台数に対して僅か1%ほどに過ぎません。 少なくとも、日本国内市場については、インフラ整備が全くと言っていいほど進んでいないので、新車生産を牽引するほどの規模にマーケットが拡大するのにはまだ時間がかかるでしょう。以上のように、自動車生産に関しては、前年を大きく上回ったとはいえ、旺盛な需要を満たすまでの供給には至らなかった一年だったと言えます。
――では、国内新車販売については、いかがでしょうか?
国内新車販売は、新車輸出とセットで考察する必要があるでしょう。2022年に目を向けると、国内新車販売台数は420万台。 コロナ禍前の2019年は約520万台ですから、新車ディーラーは前年、前々年から引き続き大きなダメージを負っていました。ところが、メーカーに目を向けてみると、史上最高益に近い数字を記録していたのです。 これは、円安の影響で新車の輸出台数が爆発的に伸び、純利益が積み重なった結果。 つまり、メーカーは利益率の高い海外市場を優先したため、国内ディーラーが皺寄せを被っていたということです。明けて2023年の年初は、新車ディーラーからのプレッシャーを受けたメーカー各社は輸出を控え、国内供給を優先するとしていました。 実際に2023年の新車販売台数の実績は、輸入車も含め10月までの累計で400万5157台の前年比15.1%増。 通年では、480万台弱となる見通しです。 これは危険水域の450万台を大きく上回り、健全な指標である500万台にかなり近づいた上向きの数値です。
ところが、新車輸出に関して は結果的に前年比で国内販売 (14・2%増)とほぼ同じ14・3% 増で、台数は前年の381万台 を55万台ほど上積みし、436万 台となりそうです。2023年 もメーカーは輸出にかなりの力 を注いでいたということです ね。為替レートを考えれば、メー カーは相当な増収増益になった ものと推測されます。
2.中古車流通
度重なる不正問題も業過に与えた影響は限定的
――次に中古車流通についての振り返りをお願いします。
何と言っても、大手中古車事業者らによる数々の不正問題に大きく揺れた一年でした。 かつても、消費者からの信頼を損なうような事件はありましたが、これほどまでに業界全体の信用を失墜させることはありませんでした。 そういった意味で、 中古車業界にとって大変厳しい一年でしたね。
――そうした問題は、中古車登録・届け出台数にも影響を及ぼしたのでしょうか。
これは意外なのですが、問題化した8月以降も、前年比で増加傾向となっています。 2023年の中古車登録・届け出台数は、前年比1.9%増の642万2197台と見込まれています。
内訳としては、登録車が354万4512台(前年比101.4%)で、軽自動車が287万7685台(同比102.5%)。何とか5年ぶりにプラス成長に転じることとなりました。
大きく社会を揺るがせた問題後も台数増となったのは、新車ディーラーの中古車部門をはじめ、問題がなかったブランドカのある販売店が、スムーズに消費者の受け皿となれたことが大きいようです。 実際、8月以降「来店数や問い合わせ件数は減ったが、逆に契約件数は増えた」との声が多く聞かれました。
ただ、その一方で中古車販売店の倒産件数は過去10年で最高だったという報道もありました。地方の販売店では、風評被害を受けてしまった店舗もあります。 ここで教訓としていただきたいのは、消費者が求めているのは「信頼」や「安心」というキーワードで、それを担保してくれるブランドだということ。オークネットを一つのブランドとして、みなさまには最大限ご活用いただきたいですね。
――続いて、 オークション実績について。2022年は、特需と言っていい状況でしたが…。
おっしゃるとおり、2022年は歴史的な相場高騰の年でした。 ですが、実は2023年もそれに劣らぬ勢いを維持しています。 9月までの実績をベースに算出した予測値ですが、 出品台数が811万2362台 (前年比117%)で、成約台数は513万7766台(前年比109.5%)と、いずれもコロナ禍前の2019年実績を大きく上回り、15年ぶりの高水準となりそうです。
成約率については、さすがに前年を4・3ポイント下げて88・7%ですが、 相場を示す平均単価は730千円と、歴史的な高騰となった2022年(742千円)と比較しても何ら遜色のない実績です。 この数字からも、不正問題による影響は限定的だったことが見て取れます。
――では、 2024年もオークション相場はこのまま高水準で推移していくのでしょうか。
懸念材料がないわけではありません。 それは、新車ディーラーの目詰まり状態です。 中古車相場が高値で推移しているのは、中古車の登録台数が落ちていないこともありますが、一方では新車販売が好調の割に、 中古車の発生量が少ないことも要因の一つ。実は多くの新車ディーラーでは、登録は済んでいるものの、ナビゲーションやエアロパーツといったディーラーオプション系が遅延していて、納車が1~2カ月程度遅れてしまい、 目詰まり状態になっているのです。
今後、この状態が解消され下取車が中古車市場に大量に流れてくると、国内需要を上回る供給量となって相場が下降傾向に突入する可能性があります。
3. 中古車輸出
中古車輸出世界1位の座は今後しばらくは揺るがない
――今後は暴落の可能性もあるということでしょうか。
私は暴落はないと見ています。なぜなら、 現在は中古車輸出が絶好調だからです。 8月には、1900cc以上のいかなる自動車も輸出してはならないという、ロシアへの追加制裁が発動されましたが、 それすらほとんど影響はありません。 8月の中古車輸出台数は12万3575台と、8月単月の記録としては過去最高を更新。累計でも99万5383台と、8月の時点ですでに100万台近くに到達するなどまさに記録すくめ。 中古車輸出はかつてないほどの盛況を呈しています。
――日本からの中古車仕向地として、非常に大きな存在であるロシアのマーケットが縮小したのにもかかわらず、全体の輪出台数が増加したのは、どんな要因が考えられますか。
追加制裁を受けてロシアへの輸出台数は確かに大幅な減少となりましたが、意外にもほかの仕向国が絶好調でした。 輸出全体の86%を占める上位25カ国のうち、8月だけでみると前年を下回ったのはロシアを除いて、フィリピン (商業車のみ輸出)とバングラデシュの僅か2カ国だけで、22カ国は軒並み大幅な増加となりました。 なかには前年同月の2~4倍と増えた国もあります。 結局のところ、 ロシアの減少分は、ほかの仕向国が吸収してしまったのです。
中古車輸出好調の要因として第一に挙げられるのは、やはり円安でしょう。一時は円高に振れ、年明けは1USドル=130円でスタートしましたが、今や150円近くにまで達しています。 輸出業者にとっては、安く仕入れられることになるので、バイイングパワーが拡大するのは至極当然のこと。
第二に、日本国内で新車販売数が改善され、それに伴い中古車流通量が拡大していること。
第三にはコンテナの供給量拡大と運賃の値下げが挙げられます。
そして、第四としてはリスクが分散されていることです。過去最高の輸出台数134万台を記録した2008年は、ロシアー国だけで、年間56万3369台が輸出されていました。 それが、2023年は160の国に、約140万台が輸出されると見込まれています。 極度のロシア依存が解消されました。 地政学的なリスクを考えれば、 リスクヘッジという意味で今の状況のほうが健全でしょう。 今後、何らかの理由で輸出できない国が発生しても、ほかの国で十分にカバーしていけるはずです。
――では、2024年に向けても、中古車輸出業は視界良好ということでしょうか。
2023年に、新車輸出台数世界1位の座は中国に奪われてしまいました。しかし、中華輸出台数に関しては、2位のアメリカ、3位のユーロを大きく引き離して日本が世界1位の座をしています。 おそらく、 2024年は150万~160万台を記録するでしょう。 これは、"ユーズド・イン・ジャパン"のブランドカが世界中に浸透しているからです。 日本車は故障が少ないというのはもちろん、 走行距離が短くものを大切に扱う国民性ゆえにコンディションがいい。 しかも、形骸化せず運用されてい車検制度が抜群の信頼感を与えています。
前述しましたが、 これからはますます 「信頼」 「安心」というキーワードが重要になってきます。 これは、新車でも中古車でも、日本国内でも海外でも同じです。 ユーズド・イン・ジャバンであり、しかもオークネットで仕入れているのだというブランド力は、世界でも確実に通用します。 さらに、円高トレンドがしばらく続いていくだろうと予測すれば、 中古車輸出業の伸展を阻害する要素はほとんど考えられません。国内の小売需要は横ばいでしょうから、今後は中古車輸出が業界全体を牽引していくのではないでしょうか。
オークマン2024年2月号掲載記事