2024年の自動車流通を振り返る

コロナ禍が過ぎ、大手中古車販売業者による不正問題を乗り越えたと思った矢先、
回復傾向にあった業界に水を差した自動車メーカーによる認証不正問題。
暗い幕開けとなった2024年はどんな年だったのか。
自動車流通市場研究所理事長の中尾聡氏に語ってもらいます。

メーカー各社の不正問題で
新車販売台数は危険水域
――まずは、2024年の中古車流通について振り返っていただけますでしょうか。
現在、中古車相場が空前の高値になっていることは、オークネット会員の皆様でしたら体感されていることかと思います。さらに、それを数値として見てみると、中古車流通で何が起こっているのかを、より正確にご理解いただけるでしょう。まず見ていただきたいのは、下記の「直近5年間の7日間移動平均の相場推移」グラフです。コロナ禍において第1回目の緊急事態宣言が発令された20年4月に中古車相場は底を打ちました(注①)。日本経済全体が一旦停止を迫られた事態でしたから、これは当然のことです。しかし、それ以降の5年間は基本的に相場が上昇し続けています。22年、23年も空前の高騰と見られていましたが、24年は異次元の上げ幅と言えるでしょう。9月第1週の数値は20年の底値に対して2倍以上(注②)。日経平均株価や金相場など、過去に同じような短期間での高騰を経験しているマーケットはあるものの、中古車相場は少なくとも市場が確立した昭和30年代以降だと、これほどの短期間での高騰は初めてのことです。

――こうした高騰の要因としては、どんな事が考えられるのでしょう。
いくつかの要素が絡み合った結果なので、要因を一つだけに絞ることはできません。しかし、すべての要因の起点となっているのは間違いなく新車販売の低迷です。コロナ禍前までは全世界で約9200万台が生産されていましたが、コロナ禍後は7700万台にまで減少しています。まず、20年に新型コロナウィルス感染症のパンデミックが始まった頃は工場が閉鎖されたため、新車の生産台数は急激に下落。ワクチンの普及によって生産ラインは復旧したものの、今度は半導体不足が足かせとなって生産台数を思うように伸ばすことはできませんでした。半導体不足も徐々に解消の兆しが見え、24年は国内新車販売台数の健全な指標である500万台近くまで回復すると見られていたところに、降って湧いたのが自動車メーカー各社による認証不正問題です。23年12月のダイハツに始まり、24年6月のトヨタ、ホンダ、スズキ、マツダ、7月には再びトヨタで不祥事が発覚し、自動車業界全体に暗い影を落としたのです。
――メーカー各社の不正問題は、具体的に業界にどのような影響を及ぼしたのでしょう。
「新車販売台数月間推移比較」グラフをご覧ください。年明け1月〜4月までが前年を大きく下回っているのが分かります。この時期は通常なら軽自動車の新車が売れる時期なのですが、ダイハツの工場が停止したことが大きく影響しています。5月初旬に生産が再開すると7月には全体で前年を6・9%上回るまでに回復するのですが、8月は前述の通り6月、7月の不祥事発覚もあって再びマイナスに転じました。結局のところ、24年1月〜10月にかけての前年増減比では、トヨタが前年比16%減、ダイハツが41%減
、マツダが23・1%減といった具合に、大幅に新車販売台数は落ち込みました。24年10月時点での通年見込みでは、軽自動車が前年比10・1%減の156万 9141台、登録車が前年比3・7%減の292 万 3038台、合計で前年比6%減の449 万2179台と分析しています。コロナ禍で低迷した21年、22年よりはましですが、危険水準といわれる450万台を割り込む結果となったのは非常に残念です。
――新車販売台数の低迷が、中古車相場の高騰に及ぼす影響について詳しく教えてください。
自動車販売の上流である新車販売台数が減少すれば、当然ながら中古車発生量も減少します。さらに、新車の供給量が減ることで、代替サイクルも長くなっています。バブルの頃は新車を購入したユーザーが、1回目の車検でまた新車を買い替えることが多かったのですが、今はそのサイクルが9・1年程度にまで延びています。景気の低迷に加え、そもそも新車が世の中に出回らないので、新車ユーザーの買い控えが起こっているのです。つまり、ここでも中古車が市場に出る機会が少なくなってきてしまっているのです。

海外の旺盛な需要が中古車マーケットを支える
――出品車が少なくても、不景気による需要の低下も見込めば、需給のバランスは整ってくるのではないかという見方もあるのではないでしょうか。
ここ数年の中古車市場の活況を支えているのは、国内需要ではなく海外需要です。そもそも自動車の国内マーケットは縮小の一途をたどっています。24年の出生数は70万人を切り、新成人の人口は106万人と大きく落ち込んでいます。日本の平均年齢は、なんと約49歳です。この傾向が今後急激に改善することはありません。つまり、そもそも日本国内では自動車を必要とする人が減り続けていくのです。一方、減ったとはいえいまだに国内には約6200万台の自動車保有台数(軽自動車を含む乗用車)があります。これがどこに向かうのかといえば、その多くは海外なのです。右記の「中古車輸出台数と中古車小売台数の推移&予測」グラフを見てください。国内での中古車小売台数は今後も減り続けていきますが、一方で中古車輸出台数は伸び続けています。私の見立てでは、遅くとも30年にはこの数字は逆転するはずです。
――最大の中古車仕向地だったロシアへの輸出規制強化もありました。しかし輸出台数は減るどころか増えているのは、どういった理由なのでしょう。
いまだに日本の中古車輸出マーケットは、ロシアの旺盛な需要に支えられている部分が多いと分析できます。「2024年中古車輸出台数の予測と2023年の比較」を見ていただくと、ロシアは前年比91・6%と落ち込んでいるように見えますが、これは表向きの数字です。実際には、前年より5万台ほど多い中古車が日本からロシアに流れ着くはずです。注目してほしいのは、3位のモンゴルや15位のキプロスといった、非常に小さなマーケットへの中古車輸出台数。例年モンゴル国内へ日本からの中古車需要は6万台ほどなのに、2024年には10万台以上が輸出されています。これらの多くは、モンゴルを経由してロシアへと流れていくのでしょう。また、ランク外ではありますが、韓国にも日本から多くのHVやEVが輸出されています。韓国では、日本の中古車を登録することはできません。つまり、これらも韓国経由でロシアへと送り届けるルートがあるのです。現在は韓国からロシアへの輸出規制も強化されましたから、おそらく韓国からさらに第四国を経由していると予測されています。

――しかし、ロシアには国産車のメーカーも存在しています。加えて中国ブランドも新車市場に参入しているとの報道を見かけます。それだけではロシア国内の需要を賄うことはできないのでしょうか。
たしかに、ロシアの23年の乗用車新車販売台数を見ると、1位が国産のラーダ、以下は2位のチェリーから7位のオモダまで中国ブランドが占めています。これだけで占有割合は約7割以上です。しかし、話を中古車に移すとこの割合は一変します。23年にロシアで販売された中古車569万2955台のうち、トヨタ、日産、ホンダの日本3大ブランドで合計116 万2287台と、全体の20・4%を占めているのです。このうち、日本から輸入された中古車は22万台弱で、残りは日本車メーカーがロシア撤退以前に同国で生産、あるいは輸入した車のようです。つまり何が言いたいかというと、国産車と中国車では、ウクライナ侵攻前まで西側諸国の車に慣れていたロシア国民を満足させることができていないということです。納得のいかない新車を買うくらいなら、規制対象になっていたとしても日本車をはじめとする欧米車の高年式車をなんとかして手に入れようというマインドとなり、旺盛な需要につながっているということなのでしょう。
今後もしウクライナとの停戦が実現したとしても、すぐに西側のメーカーがロシアに戻るとは考えにくい。ロシアに新車で輸出された中国車の代替が数年後に始まり、中古車が流通するようになった際の動向には注目する必要がありますが、すぐに日本車の需要が減退する可能性は低いと見ます。さらにアフリカ諸国からのニーズも右肩上がりですから、当分は中古車輸出マーケットは堅調でしょうね。
――つまり、国内の新車販売台数が低迷して中古車発生量が減少しているなか、海外からの旺盛な需要が中古車相場を押し上げているということですね。この傾向は、オークションの成約率や落札単価にも数字となって現れているのでしょうか。
24年10月からの3カ月は見込み数値ですが、24年の出品台数は前年比で7・7%減、台数にすると約61万台減少しました。しかし、成約台数は前年比1・4%増、約7・5万台増やしています。これにより、成約率は6・5ポイントの上昇。通年では初めて70%を超えて71・5%と過去最高を記録しました。また、平均落札価格は前年から16万4000円アップの88万8000円。これは、データが残っている1994年以降では最高額となっています。

――高年式で高額な中古車にニーズが集中しているということなのでしょうか。
ロシアやマレーシアなどについてはそうですね。特にマレーシアは、24年の中古車輸出台数が過去最高値である昨年比114・1%の4万台と予測されていますし、平均輸出価格も500万円近い異常な高値となっています。ただし、アラブ首長国連邦(UAE)やチリなどでは低年式で低額な車両が求められています。24年にはアメリカの対中国関税引き上げや、世界物流の要衝であるパナマ運河とスエズ運河の混乱により海上運賃が上がり、こうした仕向地への輸出台数は減少しました。しかし25年にはこれも回復するのは確実です。
また、夏に暴落した鉄スクラップ相場も徐々に反発すると予想されます。リサイクルされる車両と輸出される低年式の中古車は競合しています。特に近年は低年式車の輸出需要が高まり、本来であれば資源としてリサイクルされるべき車両が海外に流出してしまっていたのですが、鉄スクラップ相場の下落によって低年式車の輸出は低迷していました。相場が戻れば、低年式車や不動車まで、また多く海外に輸出されていくことになるでしょう。
――いずれにしろ、中古車流通市場において輸出業の存在感は今後さらに大きくなっていきそうですね。
中古車輸出台数は、2位のアメリカ、3位のユーロを大きく引き離して日本が世界1位の座を堅持しています。〝ユーズド・イン・ジャパン〞の信頼は、もはや世界の隅々にまで行き届いているのです。ですから、オークネットとしては大手輸出業者との連携をより強めていくことが経営強化につながるでしょう。自社ECサイトと共有在庫を連携させるなどして、よりスムーズな取引ができるようになれば、まだまだ取引額は増えていくはずです。
国内市場での生き残りは信頼と安心の提供が鍵
――成約率も平均落札価格も上がるのは市場にとってはいいことですが、お話からすると海外需要に支えられている部分が大きく、国内の中古車販売専業店は落札が難しくなっているのではないでしょうか。
残念ながら、それは否定できません。ここのところ新車販売台数は昨年並みまで回復しています。今後は中古車発生量も増加し、中古車相場が今以上に高騰することはないでしょう。つまり、輸出業者を中心とする成約率は引き続き上がっていくということ。そうなると、地方の中小専業店は仕入れが非常に困難になってくるかもしれません。今後は、可能であれば輸出チャンネルを設けることも考えていくべきでしょう。
――とはいえ、輸出ノウハウを持たない専業店にとっては難しい話です。なにか打開策はないでしょうか。
ひとつは、オークネットのブランド力を最大限に利用することでしょうね。消費者が求めているのは「信頼」や「安心」というキーワード。23年の大手中古車事業者による不正問題があったにもかかわらず、やはり多くの消費者は今も大手販売店を選ぶことが多いようです。これは、テレビCMなどによって「信頼」や「安心」が担保されているように感じているからでしょう。こうした大手に対抗していくには、オークションで仕入れた車をただ販売するだけでは、お客様を引き付けることはできません。AIS認定やオークネット保証をはじめとするサービスを利用し、保険、車検、修理といった車両購入後のあれこれをワンストップで提供できる体制を整えていくべきでしょうね。
オークマン2025年2月号掲載記事