2023/8/1
本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
1 自動車流通のトレンド
【2023年上期新車関連実績サマリー】
直近3年間はパンデミックによって、危険水域に陥った新車関連ですが、2023年は回復を目指してスタートをし、早くも上期が経過しました。販売、輸出、生産の各部門がどれだけ回復を遂げたのか、また下期の動向について、今回レポートします。
【新車販売】
23年上期の国内新車販売台数は登録車と軽自動車の合計で245万600台となり、最悪だった昨年同期に対して17.5%増の実績となりました。この数値だけを見れば、確かに回復傾向にあると言えます。ただ、平時である19年実績(275万3400台)と比較しますと、11.1%の減少、未だ二桁のマイナス成長で正常化には遠い実績です。気になるのは下期です。実は新車供給の改善は昨年9月から始まっていて、表①をご覧いただきたいのですが、10月以降の実績は平時の19年実績を上回る、もしくは19年並みの数値まで引き上がっています。以前のレポートでも触れていますが、現在、前年比二桁伸張で堅調に推移しているものの、これを10月以降も維持できるかと言えば、現状の供給状況を考えるとかなり難しいのではないでしょうか。仮に年末まで継続されたとすれば、業界でベンチマークとしている500万台に限りなく近づくとは思いますが、10月以降は失速し、最終到着時点は470万台前後になるかと予想しています。是非この視点で下期を注目していただければと思います。
【新車輸出】
新車輸出については、現時点で5月実績までしか発表されていませんので、それをベースに分析してみます。昨年、自動車メーカー各社は新車輸出台数を大幅に減少させたものの、歴史的な円安の恩恵を受けて、業績的には大いに向上しています。一方、供給不足によって困窮する国内新車ディーラーからは、国内供給を優先するよう突き上げられたことで、年明けから輸出は前年を割り込む実績でスタートしています。しかし、国内供給が回復傾向に入り、新車ディーラーからのプレッシャーが緩むと、再び輸出台数を増やしていき、5月実績に至っては前年比で43.7%増まで一気に引き上げています。結果的に、表②のように5月までの累計では161万4784台となり、前年比では13.4%増ですから、新車販売とさほど変わらない程度まで回復しています。今後も新車ディーラーの顔色を窺う展開にはなろうかと思いますが、最終的に通年で430万程度まで回復するのではないでしょうか。
【自動車生産】
自動車生産台数の発表は、輸出よりもさらに1ケ月遅れますので、4月までの実績ベースになります。累計は293万6974台で前年比は15.4%増ですが、平時の19年対比だと12.9%の減となります。問題であった部品の供給は改善されているとは聞きますが、パノラミックビューモニターやナビ関連、スマートキーなどに用いられる高性能半導体は未だ供給が滞っているとのことです。これが解消するのは年内は難しく、来年以降になると見られています。恐らく、この状況で推移すると、通年での生産台数は880万台前後に留まり、ベンチマークである1000万台には、遠く及ばないのではないかと思われます。
ここがPOINT!
本来であれば、新車供給が回復すると下取車が増え、中古車がだぶついて、相場が下落するという傾向になりますが、意外なことに現在は相場が下がらず、昨年9月から落ち込んでいた小売りも、ここにきて多少上向いてきているようです。これは色んな要因が考えられますが、最近ある調査機関の発表によると、「10年前に比較すると新車の車両価格は20%も上がっているが、賃金は4%しか上がっていない。これによって、新車の潜在的な需要が減少しているのではないか」と言う内容でした。気になる情報だったので、お伝えします。
2 中古車流通のあれこれ
【国内中古車相場に影響が及びかねないロシア中古車輸出の異変】
7月7日、ロシアの通信社インタファックス社は同国産業通商省長官の発言として、輸入車に関する規制強化を発表しました。一方、18日には、読売新聞オンラインで、日本政府が新たな経済制裁として、同国への輸出規制を強化するとのニュースがリリースされました。輸出する側、輸入する側が同時期に規制を強化するというのは、極めて異常な事態です。この件については、本来だと次項の「中古車輸出」で紹介すべき内容ですが、今月以降、この事態によって国内相場に影響を与えることは必至で、国内中古車流通にも波及すると予想されますので、今回はこの項目で緊急的にレポートします。
【ロシア側 8月1日以降に通関する車両には、大幅にリサイクル料金を引き上げ】
ロシア側の規制は、輸入車に対するリサイクル料金の大幅な引き上げです。具体的2000CC以下の車を例に挙げると、現行17万8400ルーブル(日本円で約27万円)のリサイクル料金を1.7倍の30万ルーブル(同約46万円)にまで引き上げるというものです。さらに排気量が高くなるにつれ、3.7倍まで上がりますし、小型商用車やトラックも含め輸入車に対しては軒並み引き上げとなります。このリサイクル料金ですが、日本のリサイクル預託金と同じ性格のもので、廃車に係わるコストの前払いです。奇妙に思えることは、このコストが日本の30倍も掛かるとは到底思えませんし、第一、ロシアでは使用年数が異常に長く、廃車の発生率自体が極めて低いという点です。要するにリサイクルとは、あくまでも名目であって、真の目的は輸入車の締め出しにあることは明らかです。実際にインタファックス社のインタビューに答えた長官は、「この措置は国内の自動車産業を保護するために必要だ」と明言し、同時期に自動車メーカー側も「提案した内容がほぼ受け入れられた」と大胆にもプレスリリースしています。
【日本側 1900CC以上のガソリン、ディーゼル乗用車とすべてのHV、PHV、EVの中古車輸出を禁止】
日本側については、欧米に足並みを揃える形となったロシアに対する追加制裁としての規制強化です。これは5月に開催された広島サミットにゼレンスキー大統領が参加し、G7との共同声明で「ロシアの侵略に重要な全ての品目の輸出を制限するための行動を拡大する」と表明したことに対する動きとなります。
すでに5月には米国が全ての乗用車を対象に、6月にはEUが1900CC以上のガソリン、ディーゼルの乗用車と全てのHV、PHV、EVを対象として禁輸としました。日本もこれを受けて、EUの内容をほぼスライドして追加規制する模様です。現時点では正式な発表はされていませんが、近々にも閣議決定されて、8月上旬には適用されると思われます。これによる、影響についてですが、添付資料をご覧ください。今年は5月までにロシアへ9万1616台(月平均で1万8323台)の中古車が輸出されました。そのうち青の部分が禁止されるカテゴリーですが、4万720台、割合から言うと44.4%もあります。これに緑の部分のうち、2000CCの車両が加わりますが、恐らく7000台程度と推測すると、合計で4万7720台、割合から言えば52.1%となり、軽く半減してしまいます。さらにこれにロシア側の規制が加わりますので、月間平均にすると、5000台を下回る可能性が十分あると考えられます。7月第三週前半までは、これといった相場への影響は見受けられませんでしたが、今後、国内相場への影響は必至かと思います。ただ逆にこれが追い風となる仕向国があったり、幸いにして国内小売りが多少上向いている傾向がありますので、相場への影響は限定的だと見る向きもあります。いずれにしましても、今後の相場動向に注視してください。
ここがPOINT!
ロシアへ輸出されている業者数社に緊急取材をしてみましたが、どなたも日本にある在庫を期限内に現地で通関させるかが最優先事項であり、現在買い付けは停止しているとのことでした。これまで同国向けに輸出されていた人気車種は以下のような車種となります。今後、相場に影響が出ると思われる車種ですのでご注意ください。
ランドクルーザープラド5D(TRJ150W) ヴェゼルHV(RU3) フィットシャトルHV(GP2) プリウスα(ZVW41W) C-HRHV(ZYX10)ノートeパワー(HE12) リーフ(AZE0) プリウス(ZVW30) ハリアー(ZSU60W)・・・など
3 どうなってるの中古車輸出
【タンザニアの好調な要因を中古車輸出検査の視点から検証】
今年好調に推移していた中古車輸出ですが、前頁で紹介した通り、ロシアに急ブレーキが掛かり、異変が生じそうです。ただ、これが追い風になる国も多く予想され、その代表格が筆者はタンザニアだと見ています。これまでもこの連載で再三取り上げている国ですが、今回は中古車輸出検査会社を取材し、検査会社からの視点で好調な要因を検証してみました。
【タンザニア向け中古車輸出検査の現状】
取材に訪れたのは、全国9ケ所の国際港で8ケ国の中古車輸出検査を展開するEAA株式会社(本社:神奈川・大和市菅井プロスパー社長)です。タンザニアへ輸出する中古車は全車に輸出検査が義務付けられていますが、同国政府から検査を委託されているのは、唯一同社だけです。同国向けの中古車輸出検査は目視と機械検査で行い、検査費用は1台150US㌦です。1発での合格率はおよそ75%。25%ほど不合格になる理由は、概ね錆、タイヤの溝、チェックランプの不具合によるもの。
その場合、21日以内に錆はタッチアップし、タイヤは交換し、チェックランプは修理して再検査することで、ほぼ100%合格するようです。ちなみに錆で問題となるのは、現地で荷揚げやデバンニングする作業員が薄着で肌を露出していることから、怪我をしないための対応で、他の仕向国の錆の問題とは異なる点が興味深いです。合格すると検査証が発行されますが、有効期限があり、発行されたその日から3ケ月以内に現地で通関しなければなりません。同社が画期的なのは、何かと制約がある保税エリアで検査を実施している点です。それを可能にしたのが、同社が開発した移動式の検査車両(画像①参照)です。ちなみにこの検査車両はパテントも取得しています。(画像②参照)これによって、飛躍的に拡大する中古車輸出検査台数を処理してきました。
【中古車への割賦販売導入により日本からの中古車輸出は飛躍的な拡大が予想】
ところで、近年のタンザニアの躍進は、年々検査台数が拡大していることから、菅井社長は肌で実感していますが、それ以上に彼自身が同国の出身であり、これまでの市場背景や今後さらなる飛躍が期待できる要因については誰よりも詳しいと言えます。そこでその点について聞いてみました。
《近年飛躍的な成長を遂げている市場背景について》
❐ 広大な国土(日本の国土の2.5倍)と豊富な資源に加え、近年人口が飛躍的に拡大(6100万人、20年前に比較し2.5倍に増加)し、目覚ましい経済発展を遂げている。
❐ かつてはアフリカ社会主義を採用し、閉鎖的であったが、近年は民主化に踏み切り、市場経済へ移行。
❐ 玄関口としてのダルエスサラーム港の内陸国への輸送インフラの充実。
《今後さらなる飛躍が期待できる要因として》
❐ 同国内で中古車に対して割賦販売がスタート。日本も昭和50年代前半に中古車にも割賦販売を導入したところ、中古車販売が飛躍的に拡大したように、タンザニアの国民にも車が手に届く商品となり、一気に拡大が期待できる。
❐ 国内の経済基盤強化を推し進めていた先代大統領が21年3月に急死し、その後就任した女性初のサミア大統領は、外資にオープンな経済政策を展開し開放路線へと舵を切っていること。
以上のようにコメントしてくれました。
ここがPOINT!
今年5月までの累計実績では、タンザニアは前年増減比で1.6%増と全体平均の20.2%増と比較するとパッとしていないようにも見られますが、近年は毎年記録を更新していて、昨年は初めて7万台超えとなり、それを今年も上回っているのですから、旺盛な需要があることは間違いなさそうです。現時点で平均を下回っている要因としては、船腹の確保が少しタイトになっていることと、日本国内の港が中古車で溢れてしまって、滞留していることによります。ロシア向け車両と被るものは少ないですが、滞留している大きな要因は、ロシアの存在ですから、これが今後撤退することで同国にとっては追い風になる可能性があります。年後半に向けて注目していきたいところです。