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業界レポート10月号 Vol.47

2023/10/1




本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。

執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡



 

▼目次


【電気自動車(EV)の現在地PARTⅡ】


【「支払総額」の導入で逆風を追い風に】


【経済制裁&リサイクル料金の値上げによるロシアの影響を探る】


 

1 自動車流通のトレンド

【電気自動車(EV)の現在地PARTⅡ】


 筆者は9月中旬に3年振りに中国を訪れました。中国では車のナンバーの識別として、緑色のグラデーションにDの文字が入っているナンバーはEVを示しますが、今回このナンバーの 車両を高速道路の移動中や市街地で見かけることが多く、想像以上にEVが普及していることを実感しました。

 ところで、7月号(VOL,44)で、「電気自動車(EV)の現在地」をお届けしましたが、会員の皆様からの反響が大きかったため、今回は「PARTⅡ」として、切り口を変えて紹介したい と思います。


【日本政府が掲げる電動化の目標値とEV近年の実績】

 日本では経済産業省が2020年12月に関係省庁との連携で策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」によって、「2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現する」という方針が定められました。ただし、ここで言う“電動車”には、EVやPHEV、FCVだけでなく、HVも含まれ ています。従って、EVが主流となっていくとは思いますが、すべての車をEVにするというわけではありません。

 しかし一方では、35年以降、長年、日本の自動車産業を支えてきた内燃機関のガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車が、新車市場から退場することも意味しています。

 それでは、電動化の中心となる軽自動車を含めたEVの新車販売台数実績が、近年どう推移しているのか見ていきたいと思います。(表①参照)20年が1万6239台、21年が2万5753台、22年は5万9237台で、そして今年23年は、現状では10万台前後と見込まれますから、そういった意味では、飛躍的に拡大していると言えます。ただ市場全体に占める割合は未だ2%強に過ぎなく表②に示した政府の目標値にはかなりかけ離れています。しかし近年一年ごとに倍増しているこの傾向が今後も続けば、計算的には、30年までに150万台付近に達し、目標の20~30%を実現する可能性は十分あります。

表①電気自動車(EV)の新車販売台数グラフ

表②日本の新車市場における電動化(軽含む)の現状と目標



【今後EVが普及していく上で鍵を握る急速充電器3万基の達成】

 飛躍的に拡大を遂げているEVと言っても、現状は22年6月から販売が開始された軽EVで日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」の家庭用充電で賄える軽自動車EVが市場を支えています。今後、物流業界でもラストワンマイルで拠点内充電が可能な輸入車の軽バン&軽ト ラックのEVを導入予定の企業が多く、当面EVは軽自動車中心の展開となります。

 肝心の普通乗用車クラスのEVが普及するには、公共の急速充電器の普及が鍵になるとみています。その普及が加速的に進めば、普通乗用車クラスのEVも一気に拡大するでしょう。

 政府はEV用の充電器設置数について、30年までに公共用「急速 充電器」3万基を含む15万基を設ける目標を掲げています。その目標値に対して、政府は現状の正確なデータを把握してなく、把握しているのは民間3社で、その3社の公表数は表③の通りとなります。それ ぞれ異なりますが、いずれも公共の急速充電器は1万器に達していません。行動範囲が狭く、家庭内や拠点内の充電で賄える軽EVと比較し、行動範囲の広い普通乗用車ベースのEVの場合は、現状のガ ソリンスタンドの拠点数並みの3万基の急速充電器が必要です。今後、この急速充電器普及の進捗に注視していただければと思います。

表③電気自動車の普及に重要な充電器設置数の状況

 

ここがPOINT!

 

 今回、訪中した際に聞いた話ですが、中国の23年通年でのEV販売の見通しは、850万台を超えるだろうとのことでした。22年が約536.5万台でしたらから、前年比で58%増となりそうです。ちなみに、22年末の段階で、公共用充電器の数は176万器とのことです。改めて、EVの普及には、公共用充電器の充実が不可欠だということを認識させられます。



 

2 中古車流通のあれこれ

【「支払総額」の導入で逆風を追い風に】


 このところの度重なる不正問題によって、当事者だけに及ばず中古車業界全体に対して、現在、社会から厳しい目が向けられ、まさに逆風に晒されています。

 そのような中、本日10月1日より、自動車公正競争規約・同施行規則が改正され、中古車の販売価格の表示が「支払総額」に変わります。これは規制の強化ではありますが、業界全体でこの改正を積極的に受け入れることで、追い風にして、社会から信頼を回復する重要な一歩にすべきだと筆者は考えています。今回はその点についてレポートさせていただきます。


【改正に至った経緯を改めて考えてみる】

 今回、改正に至った経緯は、過去にこのレポートでも何度か紹介して いますが、2020年当時、中古車情報ウエブサイト等の広告に、安価 な販売価格を表示していながら、実際の商談においては、高額な「保証」や「整備」、「オプション」等の購入を強制する、または、言葉巧みに購入させる等、不当な価格表示や不適切な販売行為について、消費者から自動車公正取引委員会(自公協)の相談窓口に多くの苦情が寄せられ、これを受けて、自公協が特に苦情の多かった企業11社に対して、覆面調査を実施したところ、程度の差はあるものの、ほぼ調査した全社に不正が認められたことで、その報告から2年の期間を経て本日、改正に至っています。そういうことでは、今回の一連の問題は、不正車検をきっかけに大き な社会問題に発展しましたが、すでに3年前から問題視はされていて、起こるべくして起った問題だと言えます。その点から言えば、遅きに失した感は否めませんが、今回の「支払総額」の改正を機に、業界全体として、襟を正す必要があります。



【品質の透明化には第三者機関の認定と充実した保証制度が重要なポイント】

 消費者からの信頼を回復させ、流通を健全化させるには、“価格と品質の透明化”が必須となります。“価格の透明化”は今回の改正によって、具現化することができますが、問題は“品質の透明化” です。これだけ地に堕ちてしまった信用を取り戻すのは至難の業です。そこで筆者が提案したいのは、第三者機関による中立公正な車両認定と保証会社を利用した保証制度の積極的な導入で、掛かるコストは、今回の改正に基づき、「支払総額」と「販売価格」に含めることです。

 とは言え、現状の小売りの現場では、IT化の普及によって空中戦が展開され、消費者の初動は地域、価格でネットから検索しますから、極力提示する価格は低く抑えたいと言う気持ちは十分理解できます。しかしこれが今回の一連の問題の起因に繋がっていますし、自社のHPやSNSを利用し、価格の内訳をしっかり説明するなどして、 ここは勇気をもって積極的に取り組んでいただきたいと思います。 また、業界周辺を見渡しますと、改善に向けた新たなサービスや既 存サービスの見直しなどが行われています。具体的な事例を一つ挙 げますと、保証制度については、現状、高額な車両には高額な保証料が、また車両の年式や走行距離数などから保証料が複雑なマ トリックスになっていますが、某保証会社では、一律定額の保証サー ビスを現在開発中で、近々リリースするのではとの声も聞かれています。自社だけで、この困難な状況を乗り切ることは難しいですが、今は情報のアンテナを敏感に稼働させ、いち早くこのような優良なサー ビスを積極的に導入して、乗り切っていきましょう。


 

ここがPOINT!

 

 今回の改正は、実は本年4月1日から移行・準備期間としてスタートしています。現状、調査対象となった大手11社やその他の大手事業者は、すでに導入されているようですが、地方の中小事業者は現時点でも踏み切っていない事業者が多く見受けられます。そのような事業者に話を聞きますと「当て馬にされるのは嫌だ」「周辺の同業者の動向を見た上で、後だしじゃんけんするのがベスト」「実際に罰則を受けた事業者が出た時点で考える」と言った声が聞かれます。 ここは大所高所から判断していただき、ドラスティックな転換を図っていただきたいと期待しています。

 

3 どうなってるの中古車輸出 Ⅱ

【経済制裁&リサイクル料金の値上げによるロシアの影響を探る】

 7月のロシアへの中古車輸出台数は3万3173台と、単月としては08年12月以来の3万台超えとなる高実績となりました。しかしながら、8月以降は実質的な経済制裁とリサイクル料金の大幅な値上げによって、急ブレーキが掛かることは明らかです。実際にどれほどのダメージになるのか? 正確な実数は、間もなく発表される財務省の貿易統計の発表を待つしかありませんが、それに先立って、中古車輸出最前線である新門司港を取材し、今後のロシアへの影響について探ってみました。


【新門司港発ロシア向け中古車 7月は過去最高、8月は半減、9月は微増】

 今回、大きな影響が出ている富山港や小樽港、また舞鶴港ではなく、敢えて新門司港を選んだかと言えば、同港もこれまでロシア がメインであったことは確かですが、前述の3港とは異なり、その他の仕向国も比較的多い港で、ロシアの影響が他国に対し、どのような影響を与えるかを検証するには最適と判断したからです。新門司港では、4つのターミナルで21ヘクタール(約6万4千坪)にも及ぶ広大な敷地で輸出される中古車がハンドリングされていま す。このターミナルを運営するECLエージェンシー(本社・東京港区 坂東博仁社長)新門司営業所の坂本祐介所長によれば、「7 月単月のロシア向け輸出台数は8月からの規制に対する駆け込み需要により、当社が当地で操業を開始して以来(2014年)、初めて3000台を超え、過去最高を更新した」とした上で、「逆に8月は予想通り、その反動によって半減している」とコメントしてくれまし た。ただ、「9月に入って、1800CC以下のガソリン・ディーゼル車を中心に若干増加傾向にある」とのことです。

出所:ECLエージェンシー経営企画室

 ところで新門司港は、水深が浅いこともあって、現状、大型の外航船が接岸することができません。外航船としては唯一、ロシア向けの中型と小型の RO-RO船(貨物船)のみが寄港しています。7月には中型と小型がそれぞれ4隻ずつ、合計で8隻接岸しましたが、8月は中型2隻と小型2隻の 合計4隻と半減したことからも、 影響の大きさを伺い知ることができました。ちなみに門司税関が発表している中古車輸出台数のうち、(円グラフ参照)ロシア向け9858台を除く、残りの車両は、近隣の博多港や下関港長州出島、苅田港などへ 陸上で保税輸送され、それぞれの港から船積されています。



【他の仕向国への影響とロシアの今後】

 他の仕向国への影響については、あくまでも筆者の感覚と坂本所長の話を総合した上で の検証となりますが、ロシアに輸出できなくなったプリウス(ZVW30)、C-HR HV(ZVX10)、 カローラフィルダーHV(NKE165G)と言った HV系がニュージーランド向けで増加している 傾向が見受けられました。

 一方、今回の規制で対象外となったフリード (㎇3)、ウイッシュ(ZEG20W)、シエンタ (NSP170G)、ヴィッツ5D(KSP130)などを中心に、減少分を穴埋めするまでには遠く及 ばないものの、ロシア向けがわずかながら増えているようです。逆にその車種が被ってしまうタ ンザニア、ケニア、モザンビークなどのアフリカ勢は、多少影響を受けている気配が感じられました。

 今後のロシアの動向についてですが、8月は今回の経済制裁によって、確かに半減しまし たが、どうやら08年から09年に経験したような大幅な減少に繋がることはなさそうです。(09 年通年で55万台が翌年は5万台に)あくまで も8月が底であって、年末に向けて緩やかに 回復していくだろうという見方が大勢のようです。


 

ここがPOINT!

 

 リサイクル料金の値上げの影響については、極めて少ないようです。その背景には、今回の値上げは、あくまでも“法人輸入”が対象であり、“個人輸入”は据え置きとなっている点です。実は12年9月にリサイクル料金が導入されて以降、それまで半々であった“個人輸入”の割合は、料金が低額であることから、一気に9割前後まで引き上がっています。従って、この値上げの意図が西側諸国への鎖国であるとしながらも、“個人輸入は据え置き”との対応は、救済策とした見方があります。


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