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大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報を
タイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【近年の中古車相場の動向とダイハツ不正問題が相場に与える影響】
【ダイハツの不正問題と中東情勢の緊迫化は中古車輸出にどんな影響】
1 自動車流通のトレンド
【ダイハツ認証不正問題による新車販売への影響は!?】
ダイハツの不正認証問題では、国土交通省による立ち入り検査が12月21日から1月9日まで実施され、46車種142件の不正を対象に検査が行われました。その結果、1月22日現在、悪質な不正と判断されたトラック3車種の「型式認定」が取り消されましたが、5車種については、基準適合性を認め、出荷停止の指示を解除しています。しかし検査では新たに14件の不正が発覚するなど広がりをみせ、また量販車をはじめ多くの車種は、未だ結果が発表はされてはいません。先を見通すのは至難の業ですが、今回、今ある情報をもとに、この問題が及ぼす新車販売の影響を考えてみたいと思います。
【現時点までの国土交通省の発表から影響を検証】
今回、型式取り消しとなったのは「グランマックス」と、OEM供給しているトヨタ自動車の「タウンエース」にマツダの「ボンゴ」のトラック3車種でした。「オフセット前面衝突試験」と「フルラップ前面衝突試験」において、本来ECU(電子制御ユニット)で作動させるエアバッグをタイマーで作動させるといった悪質な不正によるものです。ちなみに直近で日野自動車の「プロフィア」が22年3月に国交省から型式指定が取り消され、再取得したのが23年1月で出荷再開したのが3月でしたから、今回取り消しになった車種が再出荷するまでには1年近くはかかりそうです。
あくまでも筆者の仮説ですが、今回発表されたのは最も悪質で、一番厳しい処分の車種を先行させたのではないかとみています。従って、今後は、「プロボックス」や「グランマックスバン」のような基準適合性を認めるケースと「キャスト」や「ピクシスジョイ」のようなリコール対応になるケースであって、型式取り消しはないのではと希望的観測をしています。
ただ、出荷停止が解除された5車種においても、現時点で生産再開が検討されているのは「プロボックス」と「ファミリアバン」の2車種で、時期も2月中旬としています。と言うことは昨年12月26日から生産を全面的に停止して以来、丸々2ケ月間生産が行われていないということです。また肝心の主力車の検査発表が一切行われていません。このような状況から察すると、少なくとも年前半(6月まで)は、優に影響が及ぶのではないでしょうか。
【2023年新車販売実績&車名別新車販売順位から影響を検証】
すでに2ケ月間、生産が停止していると言うことは、表①をご覧いただきたいのですが、昨年の1月&2月の新車販売実績でダイハツ社は合計で10万8773台の実績がありますから、それが丸ごと消失したと言えます。これは全体の13.4%も占めますが、この数字には他メーカーへのOEM供給分は含まれていませんので、さらに影響は大きいものと思われます。間もなく発表される1月実績が気になるところですが、他メーカーの同型車へ代替えするユーザーを計算に入れても34万台前後まで落ち込むのではと懸念しています。
表②の車種別上位でも23年軽自動車のトップ10にダイハツ社は4車種がランクインして、その4車種だけでも通年で38万7359台も実績がありましたから、軽自動車に関してはより深刻です。
特に「ムーブ」については、昨秋、新型車を投入する予定でしたが、不正が見つかり開発が停止されていました。通常、新型車の投入は、現行モデルから内外装を一新し、燃費などの性能を向上させることで、売り上げ増につながることが期待されていただけに、このような人気車種の開発の遅れは大きな打撃となります。
ここがPOINT!
当初、ダイハツの問題が起こらなければ、24年通年での新車販売台数予測は、前年(478万台)の1割増し525万台と見込んでいました。昨年通年でのダイハツ社の販売台数はOEM供給を含まずに60万台弱です。これがそっくり消失することはないでしょうが、現状では半減するのではと見ています。いずれ人口減少という構造的問題によって、早晩、右肩下がりのマイナス成長に突入するのは明らかでしたが、今回の問題で、それが早まった気配が感じられます。
2 中古車流通のあれこれ
【近年の中古車相場の動向とダイハツ不正問題が相場に与える影響】
今さら、こんな話を冒頭から申し上げて恐縮ですが、本来、“中古車”と言う商品は経年劣化とともに価値は低下していくものです。ましてや、近年では代替サイクルの長期化や使用年数及び車齢が高齢化していますから、総体的に中古車相場は下降するのが自然な動きだと言えます。ところが、21年以降は相場が急上昇するという異変が生じています。今回、23年通年での実績が明らかになったことを受け、改めて考えてみるとともに、ダイハツの不正問題が相場に与える影響についてレポートしてみます。
【歴史的な相場高騰は世界的な新車供給不足を日本の中古車で補った結果】
㈱ユーストカーが発表しました23年のオークション実績によりますと、相場を示す平均落札価格は724千円と歴史的な高騰となった22年実績(742千円)を若干下回ったものの、3年連続で高値推移となりました。
これはパンデミック以降、新車供給が著しく低下したことで、代替ユーザーの多くが、高年式の中古車にシフトし、需要が高まったことに起因しています。さらに新車供給が低下したのは、何も日本に限ったことではなく、世界共通のことで、それまでは年間で1億台に達するかと思われていた世界の自動車販売台数が、パンデミックが発生した20年には7765万台にも落ち込みましたから、その消失した分を高年式の中古車で補填しようとした動きによるものだと思われます。特に日本の中古車はどこの国の中古車と比較しても優れていることから、需要が旺盛で、歴史的な相場高騰を形成しました。
果たして、これが今年も継続するかと言うことですが、本来であれば、今年は新車販売が引き続き増加し、それに並行して中古車(下取車)流通量も増加するのに対して、国内の中古車小売台数はせいぜい横這いで、需要が供給を下回ることから相場は下降局面に転じると予想していました。ところが昨年末のダイハツの不正問題が発生により、現在先行きがまったく不透明になっています。
【今後ダイハツ不正問題が相場に与える影響】
前頁で紹介している通り、ダイハツ不正問題の影響により、すでに今年2月までで新車販売台数は前年に比べ10万台近くの減少が見込まれます。その多くが、これから最大の需要期を迎える軽自動車です。新車が供給できないことで、当然中古車(下取車)の発生量も激減しますから、需要に対して供給が少なくなりますので、相場が上昇していくと考えるのが自然ではないでしょうか。特にスズキやホンダの軽自動車の中古車相場は高騰が予想されます。当事者のダイハツ系については、基準整合性が認められた車種については騰がるでしょうが、問題はリコール対応になる車種がどう動くかです。ただ現時点では、ほとんどの車種が未だ検査結果が発表されず、見通しがたっていない中、もうしばらく様子を見る必要がありそうです。
登録車の場合は、ダイハツ関連だと多くが他メーカーにOEM供給されていますが、すでに検査発表前の昨年末から輸出されるような中古車に関しては、相場は上昇傾向にあるようです。(次項で詳しく紹介)ただ、通年を通して、登録車全般で大きく動くことはないとみています。
いずれにしましても、今回の問題によって、軽自動車の中古車相場が高騰する確率は高いと言えそうです。
ここがPOINT!
代替えにせよ、生涯で初めて車のオーナーになるエントリーにせよ、ダイハツの新車を購入しようとしていたユーザー(年間で60万人)が今後、どのような行動に出るのかと予測しますと、①生産再開を待つ②他メーカーの新車に乗り換える③高年式の中古車に乗り換えると言った3つのパターンが考えられます。当たり前の話ですが、生産再開の時期が遅れれば遅れるほど、②③のユーザーが多くなります。果たして再開時期がいつになるのか、大変気になるところです。
3 どうなってるの中古車輸出
【ダイハツの不正問題と中東情勢の緊迫化は中古車輸出にどんな影響】
中古車輸出に関しまして、前回のレポートでは24年の展望として、「23年の勢いにブレーキが掛かる気配はまったく感じられず、2年連続で歴史的な記録更新が期待できる一年」と紹介しましたが、その矢先に、ダイハツの不正問題やイエメンの親イラン武装組織フーシ派による紅海上の商船攻撃で海運が混乱し始めるなど、相次いで想定外の事象が生じ、一転して勢いにブレーキが掛かる気配がでてきました。現時点では未だ先行きは不透明ではありますが、今後、中古車輸出にどのような影響が出るのか、改めて、今回考えてみたいと思います。
【ダイハツ不正問題による影響】
結論から申し上げれば、ダイハツの不正問題については、輸出には影響が少ない軽自動車がメインであり、また今回は新車の問題であることから(今後、リコールの発生により中古車にも影響はあるものの)、現時点では中古車輸出への影響は限定的かと考えています。
ただ1月19日に国土交通省が発表した出荷停止を解除した5車種のうち、トヨタへOEM供給されているタウンエースバンについては、4~5年落ちの中古車がバングラデシュやロシアへ輸出されている車種であり、すでに不正が報じられた12月後半には、当該車両5年以内のオークション出品車の成約率が50%前後から70%に急上昇、平均落札価格も10%上昇しています。(ユーストカー社調べ)このように、対象車両の中でも、海外需要のある車両については、今後、品薄になるとの見方からか、相場が上昇する可能性がありそうです。すでにロッキーHVやライズHVなども上昇傾向にありますし、今回、解除されたプロボックスも現状では、相場の動きは見られませんが、中古車では海外で人気のある車なので、今後、上昇する可能性があるかもしれません。しかし、タウンエースバンをとっても年間での新車流通量は5000台程度で、前述した通り、ダイハツは軽自動車中心であることから、多少相場に動きがあったとしても、この問題で輸出台数に影響を及ぼすまでには至らないと見ています。
【紅海上でのフーシ派による商船攻撃の影響】
一方、フーシ派の紅海上での商船への攻撃は、中古車輸出にすでに影響が生じており、現在、これが長期化するのではと懸念されています。昨年11月20日に日本郵船が運航する船がフーシ派によって拿捕されたとの報道が出た時点では、これほどまでになるとは、正直想像していませんでしたが、12月に入ると攻撃の度合いが高まり、それに対抗すべく、米国が同盟国と連携しパトロールを強化。今年に入ると、米軍と英軍がフーシ派拠点を攻撃、フーシ派は報復措置として米国商船にも攻撃するなど一気に緊迫の度合いが高まっています。
この紛争が生じている紅海は、世界で運航している約30%の船が経由しており、この航路を変更する(喜望峰経由)ことで、世界全体の約20%の積載能力が奪われると言われています。実際に世界の各船会社は昨年末から航路の変更や投入船数、船繰りなどを見直しています。それによって、日本発の中古車でも、昨年末には船会社から荷主(輸出者)に対して、突然、船積キャンセルや値上げの通知が行われているようです。
わかりやく具体的な事例で紹介しますと、近年、英国のEU離脱によって、日本からの中古車需要が高まっているキプロス、英国、アイルランドといった上位仕向国は、まさにこの航路上にありますが、キプロスに至っては、紅海を経由しスエズ運河を通過すると、ほんのわずかな距離に位置しています。しかし、この紛争によって喜望峰経由となると実に8000Km近くも遠回りしなければなりません。そうなると、必然的に納期の遅延と輸送費の上昇は避けられなくなると言うことです。
中東情勢の緊迫化によって迫られる航路変更
ここがPOINT!
ダイハツの問題は別としても、海運の混乱によって、今年は、前年を割り込みそうな気配で、2年連続での記録更新は難しい状況になってきました。しかしながら、世界における日本の中古車需要が減少することはありません。特に世界の富裕層に人気のある高額車については、納期が遅れようが、コストがアップしようが、お構いなしで、引き続き旺盛な需要が見込めます。国内の中古車小売はピークアウトに達していますが、中古車輸出に関しては、今後も長期的に右肩上がりのプラス成長が期待できることに変わりはないでしょう。
2024年2月号