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大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報を
タイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【2030年には国内中古車小売台数が中古車輸出台数に追い抜かれる実状!?】
【2023年中古車輸出実績 日本vs韓国比較分析】
1 自動車流通のトレンド
【ダイハツ不正問題の影響が1月の新車販売を直撃】
2月1日、日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会は、1月の新車登録台数・届出台数の実績を発表しました。予想通りと言いましょうか、ダイハツ不正問題が直撃しました。さらに新たに豊田自動織機からもエンジンの不正問題が発覚しています。まさにカオスと化しています。今回はこの厳しい状況をレポートします。
【新車販売1月実績は1年5ヶ月振りの前値割れ 軽自動車は22.9%の減少】
24年1月の新車販売台数実績(登録車と軽自動車の合計)は33万4838台(前年同月比12.4%減)と実に1年5ヶ月ぶりの前年割れとなりました。これは明らかにダイハツの認証不正問題で生じた影響によるものです。特に軽自動車への影響が大きく同比で22.9%もの減少となりました。
当事者のダイハツは23年1月に5万4156台の新車を販売していましたので、今年1月は2万243台ですから同比で62.6%減、台数にすると実に3万3913台も減少したことになります。それでも2万台近く売れたのは、昨年12月20日に出荷停止となった以前の在庫車であり、2月についてはその在庫車も底をついていることから、ほとんど販売台数は見込めないと思われます。通年でも最も軽自動車需要の高いこの時期ですから、かなりの痛手と言えるでしょう。
また親会社であり、OEM供給先であるトヨタについても、同比で15.1%の減少、台数にして、1万8743台、同じく供給先のマツダは5342台、スバルは372台と、それぞれ前年同月から大きく減少しました。トータルすると単月で5万8370台も減少したことになります。ただ、ホンダが受け皿になった節があり、同比で18.6%の二桁伸張で、台数にして、8383台を増やしています。また今回の問題に関係のないスズキ、日産、三菱、レクサスなどは前年を上回り、多少なり全体のマイナス分を抑えています。
2024年vs2023年1月 新車販売台数実績
乗用車ブランド1月新車販売台数(速報)
【未だ不正対象車種の半数以上が対応未定 豊田自動織機でも不正が。。。】
気になるところは、どのタイミングで全面的に生産再開するかですが、最新の情報としては、2月20日に小型SUV「ロッキー」とOEM供給車のトヨタ「ライズ」、スバル「レックス」のガソリン車について、3月4日からの生産再開に向けて調整中と発表しています。これは16日に国土交通省から出荷停止指示が解除されていた3車種です。
それ以前では、12日からトヨタの「プロボックス」とOEM車のマツダ「ファミリアバン」の生産を再開しています。26日からは軽自動車の「ミライース」、軽商用車「ハイゼットカーゴ」など計10車種の生産を再開するとのことです。
これに加え、すでに認証取り消しになったトラック3車種とリコール対応になった2車種を入れても、現時点で検査結果が発表され対応が明確になっているのは、わずか15車種程度に過ぎません。不正対象車種は46車種にも上ります。
さらに今度は新たに豊田自動織機が自動車用3機種のエンジンで、排ガス試験で実測値と異なる数値を使用するなどの不正行為が判明しています。国交省は、「型式指定」の取り消し処分も検討していると言います。このような状況ですので、仮にこれまでの不正対象車のうち、基準適合車の全面的な生産再開が、今年の上期(6月)までに目処が立ったとしても、全体への影響は年内一杯に及ぶのではないかと思われます。
ここがPOINT!
昨年は中古車で不正、年末から新車が...そしてあまり政治の話をするのは憚られますが、裏金の不正と、まさに不正のオンパレードになっています。政治に関しては、まったく国民に目を向けていない表れであり、自動車関連の不正についても、あくまでも製造側、販売側の都合による不正であって、肝心のユーザーに目線が向いていないことは、大変嘆かわしいことです。
2 中古車流通のあれこれ
【2030年には国内中古車小売台数が中古車輸出台数に追い抜かれる実状!?】
マクロ的な視点から見ますと、日本は人口減少、少子高齢化という構造的な問題によって、今後、国内における中古車小売のマーケットの縮小は避けられようにありません。(全ての国内産業にも言えることですが)一方、世界の人口は昨年11月に80億人を超え、今後長きに渡って日本の中古車需要の高まりが期待されます。そして、いずれ追い抜かれるのは必至かと思われますが、筆者はそのクロスポイントが2030年だと予測しています。今回はその点について、レポートさせていただきます。
【エントリーオーナーの規模は18年後に3割減に】
マーケットの縮小を如実に示す指標が、先ごろ発表されました。それは成人式前後に発表された新成人(18歳)人口と23年の出生数の見通しです。05年生まれの新成人人口は106万人と前年の18歳(04年生まれ)より6万人減少し、新成人人口としては、過去最低になりました。ちなみに05年は死亡数が出生数を上回って、初めて人口が減少した年でもあります。
新成人は普通免許を取得し、人生で初めて車のオーナーになることができる、中古車マーケットにおいては、大事なエントリーオーナーです。
一方、大手シンクタンク「日本総研」は23年の出生数の見通し(確定値ではない)として、72万6千人と発表しました。22年の出生数が初めて80万人台を割り込んで、77万747人となり、当時、岸田首相はこれを受けて「危機的状況」と述べていますが、それをさらに4万人も下回る深刻な状況です。
要するに、18年後のエントリーオーナーのマーケット規模が、現在と比較すると3割も減少してしまうと言うことになります。この傾向が、年々加速していることが極めて脅威だと思われます。
日本の出生数の推移
【クロスポイントは200万台 小売も輸出も30年には到達か!?】
17年から調査が開始されたリクルート社の「中古車購入実態調査」によりますと、18年の中古車小売台数は261万台を記録しましたが、その後は人口減少とともに年々下降していきます。ただ21年はパンデミックによって新車供給が著しく低下したため、中古車を代替えとして購入する新車ユーザーが増え、一時的に269万台になっています。恐らくこれが近年でのピークアウトだと考えられます。翌22年は逆に反動で227万2千台まで一気に下降し、さらに23年は社会を震撼させる不正問題もあって、前年を2千台下回る227万台まで落ち込みました。24年においては、ダイハツの不正問題により、新車供給が停滞していますから、再び増加する可能性はありますが、それはあくまでも一過性のことであって、これから先、マイナス成長は避けられません。一応、30年に200万台としていますが、もっと早まる可能性があります。
逆に中古車輸出は、世界の需要は年々高まっています。24年については、想定外の中東情勢の緊迫化によって、踊り場となりそうな気配ですが、情勢が回復すれば、堰を切った需要が見込まれますし、長期的に見ても、アフリカ、南米に向けた内燃機関の日本の中古車需要のポテンシャルは極めて高く、30年までには優に年間200万台見込め、それを機に小売台数を引き離していくと予測しています。
中古車輸出台数と中古車小売台数の推移&予測
ここがPOINT!
以前にも記述した記憶があり重複するかもしれませんが、昨年、社会を震撼させた不正問題は、明らかにマーケットが縮小していく中で、強引な多店舗展開や人員の拡大をすると言った暴挙に及び、そのコストアップを吸収し、さらに利益を確保しようとするがため、会社ぐるみで不正なことに手を染めたのだと思います。
改めて、マーケットの将来性を真摯に受け止め、ユーザーの視点に立った営業の原点に立ち戻る必要があるのだと思います。
3 どうなってるの中古車輸出
【2023年中古車輸出実績 日本vs韓国比較分析】
このほど、日韓ともに23年中古車輸出実績の確定値が明らかになりました。両国とも前年を大幅に上回り、統計開始(日=02年・韓=11年)以来の最高記録を更新しています。それぞれの実績を分析すると、両国に共通する好調要因やロシアへの経済制裁の違いから生じる傾向など数々の興味深い点が浮き彫りになっています。そこで、今回は23年の実績から、両国の中古車輸出を分析してみます。
【日本の23年中古車輸出を分析】
23年日本の中古車輸出は何から何まで記録尽くめでしたが、最終月の12月単月でも14万1148台と、本来12月は港湾稼働日が少なく、配船も少ない月にも関わらず、14万台を超えたのは驚異的であり、まさにこの一年を象徴する実績だと言えます。
この12月の高実績もあって、23年通年では実に前年比25%増の154万3364台の中古車が日本から輸出されました。仕向国数は前年から10ヶ国が増え171ヶ国。仕向国トップは、3年連続でロシアが死守しています。同国は周知の通り、8月以降は追加制裁によって、高排気量のICE、またHVやEVが輸出できなくなりましたが、その後も非規制対象車を中心に輸出が継続され、アラブ首長国連邦(UAE)を振り切っています。UAEは意外にも思えますが、初めて20万台を超え、過去最高を更新しました。その他にもタンザニア、モンゴル、タイ、ジャマイカなど上位20ヶ国のうち、実に11の国が最高記録を更新しています。さらに残りの9ヶ国も二桁伸張が5ヶ国、前年並みが4ヶ国で、大きく前年割れした国が1ヶ国もないという異例な一年でありました。
21年以降、高年式需要の高まりによって、FOB価格が高騰していましたが、23年実績は前年をわずかに下回りました。それでも865千円と依然高値で推移しています。
【韓国の23年中古車輸出を分析】
韓国貿易協会のまとめによる23年の韓国中古車輸出実績は、前年を実に57.8%も上回る63万8723台と過去最高を更新しています。世界のランキングでは日本、米国、EUに次ぐ第4位です。
仕向国トップは14年連続でリビアとなりましたが、同国は22年にコンテナ供給不足により大幅に減少していましたが、23年はコンテナ供給が回復したことで、1年間で9万台近くも増加させ15万1464台となっています。
仕向国数は日本より遥かに多い213ヶ国まで一気に伸ばしました。ちなみに22年の仕向国数は165ヶ国です。FOB価格も日本よりも高く、初めて100万円超え、108万4890円を記録更新しました。これは日本と同様にパンデミックによって、世界の新車供給が停滞したことで、代替えとして高年式需要が高まったことによります。また西側諸国が制裁としてロシアへ新車輸出を停止していることから、当年物の0㌔メーター車がキルギスやタジキスタン、またアゼルバイジャンを経由してロシアのモスクワやサンクトペテルブルクへ再輸出され、これがFOB価格を押し上げています。
統計上、ロシアは2万6955台で6位にランキングされていますが、このうち日本から輸入され、再輸出された約2700台が含まれています。またこれらは極東ウラジオストックに輸出されていますが、前述した第3国を経由してモスクワやサンクトペテルブルクに再輸出されたものは仕向国がロシアとはなっていないため、実際にどれだけの台数がロシアに輸出されたかは定かではありません。
2023年日韓中古車輸出実績
【日本】
※日本の実績で、数字が赤字で記載しているのは過去最高値
【韓国】
2022年は1ドル=132.14円で2023年は1ドル=145円で換算した。
※韓国の輸出額は、usドルで発表されていた数値を円に換算
ここがPOINT!
日本、韓国ともに、23年の中古車輸出が絶好調だった共通の要因としては、コンテナをはじめPCC、RO-RO船の海上運賃が急降下したことと配船の拡大があります。しかし24年は、23年末に生じた、中東情勢に緊迫化による海上運賃の高騰及び配船の減少によって、かなり苦戦を強いられそうです。特に韓国の仕向国トップのリビアから5位のヨルダンまで(23年実績で上位5ヶ国合計が全体の51.2%の占有率)が、全て紅海を通過することから、日本以上に厳しい一年になりそうです。
2024年3月号