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大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報を
タイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【昭和的なマイホーム、マイカーといった「所有」信仰が薄れつつある中、
成長を遂げる「利用」に改めて注目】
【物流の2024年問題 改善基準告知が本日から改正、中古車流通への影響は必至か!!】
【中古車輸出が想定外の展開、快進撃が続く要因は?】
1 自動車流通のトレンド
【昭和的なマイホーム、マイカーといった「所有」信仰が薄れつつある中、成長を遂げる「利用」に改めて注目】
23年の自動車業界は総じて堅調な一年でしたが、それ以前のパンデミックに見舞われた3年間は、かつて経験したことがないほどの厳しい状況が続きました。
しかしながら、その中でも確実にプラス成長を遂げているのが、「マイカーリース」「サブスクリプション」「カーシェアリング」と言った「利用ビジネス」です。
今回はこの「利用ビジネス」についてフォーカスしてみました。
【マイカーリース(個人向けリース)】
コロナ禍では、企業や自治体などでリモートワークの導入拡大やコスト削減を進める中、遊休状態となったリース車両(法人リース)を減車する動きが広がりましたが、逆にマイカーリースについては、着実に保有台数を増やしています。23年3月末に日本自動車リース協会連合会(JALA)が発表したマイカーリースの保有台数は58万1920台ですが、コロナ前の19年は30万8013台でしたので、まさにコロナ禍で倍増したことになります。これは、近年総体的に「所有から利用へ」という変化が加速するなか、車においてもユーザーが購入ではなく、車を利用して得られる価値に主眼を置きはじめた表れかと思います。
また現実の問題として、普通乗用車の新車価格は10年から21年の間で、20%も上昇しているのに対して、一般労働者の賃金は4%しか上昇していません。まとまった資金を用意しなくても、ライフスタイルに合わせ自由設計された決済方法が時代に受け入れられているのだと思います。またコロナ禍を機にオンラインで契約が完結する形態が普及して、保有台数を押し上げていることも重要なポイントかと思われます。
【サブスクリプション(定額課金)】
トヨタ自動車グループでサブスクリプション(定額課金)サービスを提供するKINTO社は、サブスクの累計申込数が23年12月末時点で10万件を突破したと発表しました。22年の同時期は5万5千件とのことでしたので、この1年間で8割ほど契約を伸ばしたことになります。特に昨年トヨタは人気車種の新型投入が続いたことなども後押ししたようですが、若年層から中高年層まで顧客層が拡大していることも追い風になっているようです。
同社の設立は19年1月からですから、わずか5年でこれだけの規模に拡大させました。また当初新車で契約し、満了した車両を、今度は「中古車のサブスク」で新たに展開すると言った幅の広がりもみせています。
このところ、新車の長納期化が問題視されていた中、車種にもよりますが、サブスクの方が納車が早いと言うメリットもありましたが、このように急速な拡大の背景には、やはり、車両代金に加え、登録諸費用から車検や保険などすべてコミコミで定額と言うプランが市場で受け入れているからだと言えるでしょう。
【カーシェアリング(カーシェア)】
カーシェアの情報比較サイト「カーシェアリング比較360°」が、カーシェアリング市場を独自に集計したデータ(※主要5社)によりますと、23年12月末時点で、ステーション数は約2万3103ヶ所に達し(前年同時期の16.4%増)、車両台数は5万台(同比22.7%増)に迫っています。利用者数も増加しており、23年末で350万人に達すると推測されています。この成長は、コロナ禍での外出規制解除やマスク着用見直し後のリバウンド需要、ガソリン代の高騰による新たな利用者増だと発表しています。
注目されているのは、新車ディーラーの試乗車の活用です。カーシェアリングサービスを手掛けるDeNA SOMPOモビリティー社は、新車ディーラーの試乗車を活用したカーシェアの導入店舗を現状の約6割増となる600店舗に拡大する予定とのことです。23年11月に全国の約370店舗の新車ディーラーが導入済みで、特に輸入車ディーラーでの導入店舗が多いとのことです。今後、輸入車ディーラーだけでも全国1500店舗以上に拡大する余地があるとみているようです。
※主要5社は、タイムズカーシェア、カレコ、オリックスカーシェア、カリテコ、ホンダエブリゴー
マイカーリース(個人リース)保有台数の推移
ここがPOINT!
再三申し上げていますが、今後の国内市場は残念ながら、人口減少、少子高齢化によって、縮小は避けられません。今後この厳しい市場で勝ち残っていくには新たな取り組みが求められます。すでに会員の皆様の多くは、今回ご紹介しました「利用ビジネス」は導入済みかとは思いますが、まだ導入をされていない皆様には、是非、この機会に検討してはいかかでしょうか。
2 中古車流通のあれこれ
【物流の2024年問題 改善基準告知が本日から改正 中古車流通への影響は必至か!!】
物流業界では19年に始まった働き方改革が5年間猶予されていましたが、本日から、いよいよトラックドライバーの労働時間等の基準が改正されます。これは物流業界の労働時間が全職業の平均より2割以上長く、賃金は5~15%低いことを是正する狙いがあります。すでに一部の大手では体制を整え、それに伴って、運送料金の値上げもされていますので、会員の皆様も実感されているかとは思いますが、改めて中古車流通の視点から、今回の問題を考えてみたいと思います。
【労働時間の多くが“運転する時間”よりも付帯作業や待機時間に費やされる現実】
中古車流通について今回の「2024年問題」を捉えてみますと、大きな問題となるのは、実は“トラックドライバーのハンドルを握っている時間”の問題ではではなく、オークション(AA)会場でのスタンバイ作業と言った付帯作業や搬入先(中販店や港、別のAA会場)の時間制限による待機時間などに時間を費やされていることと、これらの作業や待機時間に対して、適正な価格が反映されていなかったと言うことが、どうやら大きな問題になっているようです。
具体的な事例を挙げると、AAの付帯作業には、AA会場で荷主から依頼を受けた車両を探す“玉出し”という作業があります。AA会場の規模にもよりますが、1開催で1万台以上の出品があるような会場では、ピンポイントでその1台を探すのは大変な作業です。AA会場では、どこに置いてあるのか概略図は提供されているので、ある程度目安はつきますが、中には移動手段として足車に使用し、元に戻さないドライバーもいて、その移動されてしまった車を探すのに半日を費やしたという事例もあるようです。一般的には、1台のキャリアカーに6台積んだ場合、玉出し作業だけで3時間程度は費やします。これに車両チェックや荷積、そして搬入先での待機時間を考えると優に運転時間を超えてしまうことから、これを改善することが中古車物流においては、今回の問題解決の主眼においているようです。荷主においては、これまでは、どちらかと言えば輸送距離に対して対価が支払われていましたが、今後は運転以外の労力に対しても対価を支払うことが求められると言うことではないでしょうか。
【玉出し作業の分業制やドッキングリレーの取り組みで現状を打開】
すでに某大手物流会社では、1月から新たな体制に着手し、料金の値上げにも踏み切っています。体制変更した代表的な事例としては、主要AA会場の隣接にストックヤードを確保し、玉出し作業をドライバーではない専従スタッフが担当し、分業制にすることで、ドライバーの負担を軽減しています。また長距離輸送に関しては、特殊車両と申請した上で、輸送途上の高速道路にある上下で同じサービスエリアとなっているパーキングでドライバーが入れ替わる「ドッキングリレー」などの取り組みがされているようです。これらの取り組みによって、コストアップは避けられないため、輸送料金も値上げしていますが、荷主からは十分理解が得られているとのことです。
ここがPOINT!
現実の問題として、中古車物流の圧倒的な担い手である中・小の物流会社の多くは、現時点でも対応できていないように感じられます。このように立ち遅れてしまっている事業者も早晩、踏み切らざるを得なくなってきますが、その過程において、影響は徐々に大きくなってくると思いますので、今後の動向に注視していきたと思います。
3 どうなってるの中古車輸出
【中古車輸出が想定外の展開 快進撃が続く要因は!?】
輸出には需要なファクターとなる海上輸送が、昨年末から中東情勢の緊迫化によって、不安定となっています。またダイハツの認証不正問題による、国内における中古車発生量の減少と相場の高騰など、このところ輸出を阻害する要因が相次いで発生しています。これらの要因によって、低迷はやむを得ないと予想していました。ところが直近の12月、1月の単月実績は、貿易統計が発表された2002年以降では、過去最高となる記録を更新し続けています。今回、予想に反して、快進撃が続く要因を探ってみました。
【輸送費は高騰しても旺盛な需要を賄っているコンテナ供給の実態】
イエメンの親イラン武装組織フーシ派は、パレスチナ人との連帯を示すとして紅海で輸送途上の商舶を攻撃し、これが混乱を招き、海上輸送に関する費用の高騰と遅れを生じさせています。実際に紅海の入口であるマンデブ海峡を通過している船舶数は、2月11日段階で前年同時期と比較して54%減少、スエズ運河の通過数も同じく44%減少しています。しかし逆に言えば、半数近くは、従来通り通過していると言う事実があります。フーシ派が攻撃対象としているのは、船を所有もしくは運用している企業やその企業の役員が、何らかの形でイスラエルに関係しているかですが、その情報をフーシ派はかなり正確に掴んでいるようです。(わずかに間違って攻撃されるケースもあるようですが)
そこで、あくまでも仮説となりますが、この航路を通過するジョージアやキプロスなどが、この間、輸出台数が拡大している背景には、この攻撃対象とならない船を選択し、延着を回避していると考えられます。
次に表①に示したように、1年前に比べるとコンテナの利用率が一気に高まっている点が挙げられます。表②※2のように、確かにコンテナ輸送価格も一気に高騰してはいるものの、それでも22年1月に記録した高値(表②※1参照)に比べれば、半値近くの価格であり、さらに中国でのコンテナ生産過剰と米中の貿易摩擦によって、コンテナの供給量が、このところ拡大していることが受け皿になっているようです。
このように、海上輸送全般としては厳しい局面に差しかかかってはいるものの、拡大が続いているコンテナの供給量が旺盛な需要をしっかりとカバーしています。
【表①輸送形態の1年前と現在の対比】
【表②近年のコンテナ運賃動向とコンテナによる中古車輸出台数月間推移】
【高年式で高額な中古車が輸出される仕向国が市場を牽引】
ところで案の定というか、ダイハツの不正問題により、新車供給が停滞したことで、下取車の発生も低下し、それによって、オークション出品台数は減少、相場は高騰しています。ユーストカー社の調べによれば、相場を示すオークションの平均単価1月実績は771千円で、前年同月を45千円も上昇しています。直近3年間(21~23年)は歴史的な相場高騰となりましたが、1月実績だけでみると、その3年間と比較しても、群を抜いた高値となっています。これは国内需要も繁忙期を迎え、相場が騰がっていることが、一つの要因ではありますが、国内ユーザーの絶対数は近年減少傾向にあることから、中古車輸出の快進撃が阻害しているのではなく、相場を押し上げている大きな要因であると言えます。
その中でも特に高年式、高額車が輸出されている仕向国(表③参照)が、現在市場を牽引しています。前述したように海上輸送費は高騰し、また国内輸送費も2024年問題を前に、すでに騰がりはじめるなど、以前と比べて、確実にコストアップしているにも関わらず、それを吸収するだけの需要が、これらの仕向国にはあります。このように高年式、高額な中古車が輸出されている国の好調さが、中古車輸出の快進撃を支えています。
【表③高年式高額車の中古車輸出が増加傾向にある仕向国の1月実績】
ここがPOINT!
当初、24年の中古車輸出は好調だった前年を下回るかと予想していましたが、現在の勢いは、このまま継続される気配があり、予想に反し24年も引き続き右肩上がりの成長が期待できそうです。
2024年月号