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執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【年々広がりを見せる日本と世界の電気自動車(EV)普及率】
【「支払総額」が導入されて半年が経過するも。。。】
【世界各国の新車供給状況と日本の中古車輸出との相関性】
1 自動車流通のトレンド
【年々広がりを見せる日本と世界の電気自動車(EV)普及率】
国際エネルギー機関(IEA)のレポートによりますと、2023年に世界で販売された電気自動車(EV)は、前年の1020万台を大きく上回る1400万台に達すると発表しています。この数値は前年比で37%増、全体に対するEV普及率としては約16%となります。一方、日本のEV販売台数(PHEVとFCVは含まず)は8万8535台で、前年比では10%増加していますが、普及率はわずかに1.9%と世界の進捗と比べ、大きくかけ離れています。今回は年々広がりを見せる日本と世界のEV普及率についてレポートしてみます。
【EV後退かと思いきや、直近1月の実績は前年同月比69%増の100万台に】
ドイツで突然の補助金終了やメルセデス・ベンツが「30年までに全車EV化目標」を撤回、またフランスでも補助金削減や支給要件を強化、さらにはEVの最先端を行く中国においても、昨年12月中旬から1週間に渡って見舞われた中国東北部一帯を襲った大寒波と大雪で、「電力の消費を加速させる」、「航続距離がガクンと落ちる」、「スマートキーが動かない」といった、EVの弱点が露呈する事例がこのところ相次ぐなど、ここにきてEV普及が一気に後退するのではと思われていました。ところが直近の1月実績を見ると、前年同月比で中国が倍増、北米が41%増、EUが29%増と、あくまでも単月実績ではありますが、各地域とも後退どころか大きく前進をしています。
これはあくまでも筆者の仮説に過ぎませんが、今回改めてEVの問題が明らかになったことで、対応と対策が明確になったからではないかと考えています。具体的に申し上げると、中国の一連の事例や、EV運搬時の発火リスクなど、EVの弱点は、搭載されている液状型リチウムイオン電池に起因しているとみられます。以前から言われていたことではありますが、同電池は温度に敏感であり、低温下では性能が低下してしまうため、この弱点が今回露呈したと言えます。一方、高温下では劣化が進むとともに、液体での電解質を使用しているため、揺れによる液漏れで発火のリスクがあることが明らかになっています。
このような弱点が明らかになったことで、ユーザーはその弱点をしっかり見極めることで対応を図ることができ、またメーカーにおいては、電池の中に液体が含まず、耐久性が高く、熱や環境変化にも強い全個体電池の開発に転換するなど方向性が見いだせたことが、背景にあるのではと分析しています。
【日本のEV普及率が低迷している要因】
世界のEV販売1月実績は予想に反して大きく前年を上回りましたが、日本はと言うと、わずか4658台で、前年同月比で45%の減少、普及率も1.6%までに落ち込み、世界の動きに逆行しています。この要因は、「クリーンエネルギー自動車(CEV)補助金制度」の見直し時期に差しかかかったことが大きく、4月以降は新たな制度が導入されていますから、徐々に回復していくと思われます。とは言え飛躍的な拡大は望めません。
根本的に現状の日本ではEVが普及する環境にはありません。これまでも再三述べてきましたが、家庭内や拠点内の普通充電がメインのうちは軽EVがわずかに普及していく程度しか期待できません。肝心の登録車EVを飛躍的に普及させていくには、急速充電インフラが、最低限でも現状のガソリンスタンドと同等の3万箇所程度はなければ、普及は難しいと思われます。ちなみに韓国では、22年時点で急速充電は2万1000ケ所となっています。
現在日本では1万箇所にも満たない急速充電が、今後どのような進捗を遂げるのか、是非注視していただければと思います。
年々格差が広がる日本と世界のEV普及率
ここがPOINT!
トヨタ自動車と出光興産は次世代電池である全個体電池の量産化に向けて協業しました。27~28年には実用化され、その後、量産化するとのことです。そのタイミングと急速充電インフラの進捗を考えると、30年頃には日本も世界のEV先進国と肩を並べることができるのではないでしょうか。
2 中古車流通のあれこれ
【「支払総額」が導入されて半年が経過するも。。。】
昨年10月1日に、自動車公正競争規約・同施行規則が改正され、中古車の販売価格の表示が「支払総額」に変更となり、半年が経過しました。これは昨年、社会的に大きく失墜した業界全体の信頼を回復させるには、重要な一歩になると思っていたのですが、残念ながら、未だに「支払総額では購入できない」と言う消費者からの苦情が、自動車公正取引委員会には多く寄せられているようです。 今回、この苦情のうち、代表的なものを紹介してみたいと思います。
【苦情事例①保証を購入しないと販売しない】
●消費者からの苦情内容
サイト上で「支払総額●●●万円」「保証なし」と表示されていたが、担当者から「保証を購入してもらわなければ販売できない」と説明され、支払総額よりも41万円高くなった。 「保証なし」で購入できないのはおかしいと抗議したが、担当者は応じてくれない。
●問題点
「保証なし」と表示していながら、商談の際には保証費用を請求し、保証の購入を条件として、「支払総額」では購入できないにもかかわらず、購入できるかのような表示をしたこと。
●適正な表示・販売のポイント
・保証の購入が販売の条件である場合、「保証付き」と表示し、保証に要する費用は「車両価格」に含めて表示すること。
・「保証なし」と表示する場合、保証の購入については購入者の選択に任せる。また、保証を購入しなくても購入できることや、購入者が保証を選択した場合それに要する費用の額を表示、説明する。
【苦情事例②「オプション」を購入しないと販売しない】
●消費者からの苦情内容 担当者から「ポリマーコーティングやマフラー錆止めを購入してもらう必要がある」と説明され、サイトに表示されていた支払総額より40万円も高額になった。
表示されていた支払総額で購入したいと言ったが、担当者は応じてくれない。
●問題点 「オプション」を含まない「支払総額」を表示していながら、商談の際には「オプション」の費用を請求し、その購入を条件とし、実際に表示された「支払総額」では購入できないにもかかわらず、購入できるかのように誤認されるおそれのある表示を行った。 ●適正な表示・販売のポイント
オプションを購入するかどうかは、購入者の選択に委ねるべきものであるため、その購入を販売する際の条件としないこと。
【苦情事例③「支払総額」に、購入の際に最低限必要な「諸費用」が含まれていない】
●消費者からの苦情内容
サイトに表示されていた支払総額よりも見積額が高いので確認したところ、同サイトに表示されていた支払総額には「環境性能割」が計上されていなかったことが分かった。
担当者からは「『環境性能割』を計上し忘れた」と説明されたが、問題ではないか。
●問題点
中古車購入時に最低限必要となる「諸費用(自動車税環境性能割や検査登録手続代行費用、車庫証明手続代行費用等)」を含まずに表示したこと。
●適正な表示・販売のポイント
「諸費用」には、保険料、税金(法定費用含む)、登録等に伴う費用(新規又は移転登録を行う場合の検査登録手続代行費用及び車庫証明手続代行費用)を含めて表示すること。
ここがPOINT!
某販売店では、「保証あり」と表記はしていますが、実際に保証されるのは、「期間1ケ月、距離1000Km」という内容です。そこで「これでは不安なので長期保証を」と言うことになります。これを条件化すれば違反でしょうが、選択を委ねれば、違反にはならないようです…。ただこれでは本来の意図である消費者保護にはなっていないよう気がするのは筆者だけでしょうか?
また今回改正された規約に違反すると、本来であれば、厳重警告、社名公表、違約金という厳しい罰則が科せられていますが、それが実行されたという話は、一向に聞こえてきません。これも徹底されない要因の一つではないかと感じます。
3 どうなってるの中古車輸出
【世界各国の新車供給状況と日本の中古車輸出との相関性】
このところ、中古車輸出単価が異常な高値となっています。この大きな要因としては、20年以降、パンデミックによって、世界各国での新車供給が低迷したことで日本の中古車への代替え需要が高まったことが挙げられます。そういったことから、世界各国の新車供給の状況と日本の中古車輸出には強い相関性が見いだせます。今回、事情は異なりますが、それが堅調に表れているロシアとニュージーランドの2ケ国を分析してみます。
【世界的な新車供給不足によって、需要が高まる日本の中古車】
直近5年間の世界の新車販売実績の推移からマクロ的に捉えてみますと、パンデミック以前の19年には、世界で9135万8457台の新車が供給されていましたが、20年に入ると新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るうようになって、各国が行動制限に踏み切り、それによって自動車生産が滞り、新車供給は7878万7566台と、実に1年間で1257万台も減少してしまいました。その後は、回復傾向に転ずるも、半導体不足やロシアのウクライナ侵攻、大雨・豪雨など自然災害によって、思うような回復には至らず、昨年23年の段階でも8650万台と19年に対し500万台近くも届いていないのが現状です。また19年の新車販売についても、米中貿易摩擦や世界的な環境基準の強化によって、前年(18年)を大きく下回っていることからも、現状が極めて低い水準にあることが認識されます。
このような世界的な新車供給不足と、またコロナ禍において世界の富裕層が、海外旅行などを制限されたことで“金の使いみち”がなくなったことも相まって、世界各国で日本車だけでなく欧米車も含め、新車の代替えとして、高年式、高額車の中古車を輸入する傾向が高まりました。ただ、その中でも、品質、性能と何と言っても車両のコンディションがどこの国よりも優れている点で、日本車が群を抜いているため、需要が高まっています。
【直近5年間の世界の新車販売台数と日本からの中古車輸出台数の推移】
【新車供給の正常化には程遠いロシアの現状】
自国での新車供給が低迷し、日本からの中古車輸出が拡大した代表的な国は何と言ってもロシアです。ただ同国の場合、コロナ禍での影響は限定的で、大きな減少には至っていないのですが、22年2月のウクライナ侵攻以降、西側諸国からの経済制裁によって、同国内で生産していた西側の完成車メーカーが撤退、また西側からの新車輸入もストップしたことで、一気に新車供給が停滞してしまいました。もともと極東地域を中心に日本の中古車需要の高い国ではありましたが、このような事情から極東以外からも代替需要が高まって現在に至っています。
侵攻以降、同国では中国メーカーの技術協力で自国メーカーが強化を図り、また直接中国メーカーが進出し、挽回を図ったものの、西側の撤退によって生じた大きな穴を埋めるまでには到底至っていません。この状況が改善される見込みは薄く、従って今後も非規制対象車を中心に規制対象車の再輸出も含め、日本からの中古車輸出は拡大していくとみられます。
【直近5年間のロシアの新車販売台数と日本からの中古車輸出台数推移】
23年はロシアの自動車市場調査会社オートスタット 各メーカーの台数は概算、故に全体の合計台数と若干乖離が生じる
【政府の政策によって変動する新車供給と日本からの中古車輸出の動向】
98年に自国での生産を停止し、自動車に関しては100%輸入に依存してきたニュージーランドは、日本からの中古車が大きな割合を占めてきました。ところが近年、同国政府の政策によって、日本の中古車需要に変動が生じています。
20年の大幅な減少は、コロナ禍での影響によるものですが、21年以降は、環境に厳しい同国ならではの政策に起因しています。
具体的には、21年7月に同国政府は低炭素型自動車の購入を補助する「フィーベイド制度」を導入させたことです。これは新車EVには当時のレートで最大67万円の補助金が支給されるというもので、これによって、中国メーカーや中国で生産された米国車、また韓国車など新車EVの輸入が拡大していきます。それによって日本の中古車が減少し、さらにこの制度の財源として、22年1月からガソリン車やディーゼル車を購入する際、最大で226千円の追加料金を徴収するようになると、ダメージは拡がり、対象の車両が一気に減少し、辛うじてHVを中心に台数を確保していく状況となっています。
ただ、この制度は23年12月をもって終了し、またEVの評判も今一つであることから、今後は再びHVを中心に日本の中古車輸出需要が上向いていくことが期待されます。
【直近5年間のニュージーランドの自動車輸入台数の推移】
ここがPOINT!
今後最も気になるところは、国内流通における高年式高額車の減少です。それでなくとも代替サイクルの長期化により、発生率が減少している中、これだけ海外に流出してしまうと「枯渇する」とまでは言いませんが、絶対数はかなり減少すると思われます。
2024年5月号