本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【ダイハツ、国内4工場がすべて再稼働したが、どこまで挽回が図れるか】
【供給は減少、需要は拡大し歴史的な相場高騰に見舞われている中古車市場】
【中古車輸出で飛躍的な拡大が期待できる国、コンゴ民主共和国に迫る】
1 自動車流通のトレンド
【ダイハツ、国内4工場がすべて再稼働したが、どこまで挽回が図れるか】
認証不正を受けて昨年12月26日から稼働を止めていたダイハツ工業は、5月7日に軽自動車「コペン」を生産する本社工場(大阪府池田市)の稼働を4ケ月半ぶりに再開しました。これで国内4工場がすべて再開したことになります。とは言え、これによって速やかに新車販売が正常化するわけではありません。今回はこの問題で生じたダメージを検証し、今後どこまで挽回が期待できるのかを考えてみたいと思います。
【認証不正による新車販売のダメージは4ケ月で約29万台】
まず、これまでの全体的な新車販売への影響について分析してみますと、直近の登録車と軽自動車を含めた4月実績は31万346台で、さすがに半導体不足によって新車販売が激減した22年4月実績の29万9620台は若干上回りましたが、昨年実績34万9592台に比べると、4万台近くもショートしています。これで今年に入り、4ケ月連続で前年割れとなっていますが、各月ごとに見ていきますと、1月が▲12.4%、2月が▲19.2%(2月は過去30年で最低水準)、3月が▲21.2%と推移し、4月が▲11.2%だったので、直近4月の下げ幅が最も低く、低い次元の話ではありますが、方向的には回復に向かっていると言えます。これは、ダイハツが2月中旬以降、国土交通省による保安基準適合の確認が完了した車両から、順次生産を再開したことによりますが、ここで注視しなければならないのは、生産が再開されてから販売台数に反映されるまで、サプライヤーとの調整や人員確保などで1ケ月~2ケ月のインターバルが発生するということです。
一方、1月~4月までの累計販売台数は144万1486台でした。前年同期が173万1150台でしたから、実に4ケ月で約29万台も減少したことになります。ブランド別ではダイハツを除いて言うと、やはりOEM供給を受けていたトヨタとスバルが影響を受けました。特にトヨタに関しては、この問題により、自社生産でも、これまで以上に、より品質確認の徹底を図ったことで、一部の工場で停止する事態もあり影響しています。逆に車両供給が安定し登録車販売が好調だったホンダや、ダイハツユーザーの代替えの受け皿となったスズキは二桁増の伸長で、結果的にはまだら模様となっています。
2024年4月までの新車販売状況
【ダイハツ、2024年通年での新車販売台数は前年の半減、30万台前後か。。。】
ダイハツ単体ですと、昨年1~4月までの累計は22万8155台の実績がありましたが、今年は一気に6万1532台まで落ち込みました。実に16万6623台の減少です。かつて一つのブランドで、このわずかな期間でこれほどの台数を消失させてしまったことはなかったと思います。
昨年通年での販売台数は59万4285台でしたので月間平均にすると5万台となります。ちなみにこれまでの今年の平均は1万5382台です。明後日、6月3日には5月実績が発表されるので、是非注目していただきたいのですが、恐らく前年の半減2万5000台前後ではないかと推測しています。
さて、今後ですが、5月9日にすべての工場で生産が再開されたものの、前述のようにインターバルを考慮すれば、正常時の月間平均販売台数5万台の体制が整うのは早くても6月、現実的には7月にずれ込むのではないでしょうか。また正常時に戻ったとしても、かなりブランドイメージを損ねていますから、どれだけ市場が受け入れるかとの懸念も生じます。それを考えると、体制が整ったとしても、月間5万台に回復するのは難しく、せいぜい年末の12月に4万台近くまで戻すのが精一杯なのではないでしょうか。これにより24年通年では、前年の半減となる30万台前後まで、落ち込むと予想されます。元の状態に戻すには、あと数年を費やすことになりそうです。
2024年 主要乗用車メーカーの新車販売状況
ここがPOINT!
ダイハツの前社長奥平総一郎氏は「身の丈、こなし得る量に対して過度に詰め込み過ぎた」と話しました。まさにその通りだと思います、トヨタでも新車の開発計画にメスを入れ、向こう2~3年先の発売を目指して開発中の車両について、現場に余力を生み出すため、必要に応じて日程の延期もしくは中止判断を行う「やめかえ」に着手するとのことです。確かに今の自動車産業に求められる判断かと思います。
2 中古車流通のあれこれ
【供給は減少、需要は拡大し歴史的な相場高騰に見舞われている中古車市場】
前項でも紹介した通り、新車販売台数は今年に入って、ダイハツの認証不正により大きく減少しています。新車販売が不調なので、当然、下取車の発生も減少していますから、現在、深刻な中古車流通量不足に直面しています。しかし国内、輸出とも需要は引き続き旺盛で、以前より高まっているため、相場は高騰どころではなく、暴騰しており、かつて経験したことがないほどの厳しい市場環境にあります。今回はこの状況についてレポートします。
【中古車輸出の旺盛な需要によって、中古車相場は異常な事態に…】
今年と昨年の1月~4月までのオークション累計実績で比較してみますと、今年、出品台数は30万台も減少していますが、成約台数は逆に5万台ほど増加しています。これは国内外ともに昨年と比較して需要が高まっていることを示し、自ずと成約率も10%近くも跳ね上がり、71.6%となっています。
特筆すべきは相場を示す平均単価の上昇です。22年や23年は異常な高値と言われていましたが、今年はこれを遥かに超えて80万円台に突入しました。本来であれば、新車販売の低迷は登録車より軽自動車の方がダメージは大きいので、軽の中古車相場が高騰するのは頷けるのですが、ここまで爆上げしている背景には、絶対数は少ないものの、登録車の高年式、高額車の需要があり、これが全体を押し上げています。それも国内より輸出、特にロシアの規制対象車に対する旺盛な需要がかなり影響していると言えます。
昨年9月以降、オークション会場で当年物のランドクルーザーやアルファードが桁違いの価格で落札されているのを目の当たりにしていないでしょうか。この多くがロシアへ再輸出されています。本来、この手の車両を含め排気量1900CC以上のガソリン、ディーゼル車、HVは、規制の対象であり、直接ロシアへ輸出できなくなったのですが、規制導入以降、韓国やモンゴル、UAE、グルジア、最近では中国などの第三国を経由して同国に再輸出されるようになりました。それも日を追うごとに台数が増えています。通関で申告する仕向国はロシアではないので、正確な数値は把握できませんが、直近の3月実績で言えば、直接同国に輸出された非規制対象車は1万6千台、これはこれで確実に台数を増やしていますが、これに加えて第三国経由の規制対象車は1万台近くあると推測されます。従って、表向きは前年比で20%ダウンとなっていますが、実質は25%もアップしている現状で、これが爆上げの大きな要因になっています。
2023-2024 1月~4月 オークション実績比較
【今、オークションでは高年式の登録車を巡って熾烈な争奪戦が…】
またロシア以外にも、高年式、高額車需要の高いマレーシアやパキスタン、オーストラリア、バングラデシュと言った国々が好調なため、さらに高騰に拍車をかけています。これら輸出業者の仕入れは基本的にオークションです。従って、現在オークションではこの手の出品車の熾烈な争奪戦が繰り広げられ、国内の中販店からは「とても手が出せない」「高年式車のオークション仕入れは諦めた」との声が多く聞かれるようになりました。
新車販売の不調は底を打ったので、今後は回復に向かい、それにともなって中古車の発生量も増えてきますから、相場はそれなりに落ち着いてくるとは思われますが、何分、中古車輸出が過去最高を記録した昨年実績を大きく上回るほどの勢いが続いているので、この中古車輸出の動向を今後も注視する必要がありそうです。
直近6年間の平均単価の年間推移(24年は1-4月の実績)
ここがPOINT!
昔からオークションは「売りの場、買いの場、情報交換の場」と言われてきましたが、その時々の市況によって、それぞれの機能が上手く使い分けられてきました。このところ、中販店に話を聞くと、「今は販売よりも買取を強化して、オークションで売却し利益を確保している」とのこと。まさに今は「売りの場」としての機能を発揮する時期かと思います。
3 どうなってるの中古車輸出
【中古車輸出で飛躍的な拡大が期待できる国、コンゴ民主共和国に迫る】
このところ中古車輸出は、過去最高を記録した昨年実績に対して、二桁伸張で推移し、勢いが止まる気配がまったく感じられません。その中において、好調な国が多く、輸出台数の絶対数が少ないことから、それほど目立ってはいませんが、近年、目覚ましい成長を遂げているのが、アフリカ地域のコンゴ民主共和国です。
現在は仕向国ランキングで20位前後の存在ですが、恐らく近々にはトップ10に食い込んでくるだろうと予想されます。それだけポテンシャルを秘めた同国に今回フォーカスしてみました。
【現状は最貧国でも、近年は日本からの中古車輸出が急成長】
コンゴ民主共和国は中部アフリカに位置し、ウガンダ、タンザニア、ザンビアなど9ケ国と国境を接し、西部は大西洋に接する広大な国です。人口もこのところ急激に増加していて、23年には1億人を突破したとも言われています。このように、これだけの国土と人口、それに加えて、コバルト、金、ダイヤモンド、銅、原油など豊富な天然資源を有していることから、本来であれば、同じアフリカ地域のナイジェリアやアルジェリアと言った国々と肩を並べるほどの経済発展を遂げてもおかしくない国です。しかし同国の場合、長年に渡って歴史的な部族間対立や資源を巡る武装勢力の対立などによって、経済の成長を妨げてきたと言う事実があります。
また豊かさの基準とされる国民一人当たりの国内総生産(GDP)も、わずか632US㌦(22年)で、世界の中でも181位と極めて低く、最貧国の一つと言われています。同GDPの見方として、1000US㌦に達するとバイクが普及し、3000US㌦になれば自動車が普及すると言われていますが、現状はバイクの普及にも遠く及んでいないのが実態です。実際に同国の自動車保有台数は17年の時点で、211万4千台なので、広大な土地と人口から見れば、普及率も極めて低い値だと言えます。しかしながら、この規模でこの程度の普及率であるということは、逆に考えると今後、経済成長が見込まれれば、極めて高いポテンシャルを秘めている国だと言えるでしょう。
近年、日本から同国への中古車輸出の傾向をみても、その状況を伺い知ることができます。22年、23年には2年連続で過去最高を更新し、今年に入っても前年に対して4割増で推移しており、恐らく通年では初の2万台超えが視野に入っており、3年連続で記録を更新するのも確実な状況にあります。
2002~2023年 コンゴ民主共和国への中古車輸出台数推移
【世界生産の7割を占めるコバルトなど豊富な天然資源を背景に躍進を期待】
日本からコンゴ民主共和国に輸出される中古車は、FOB価格が60万円前後で推移していて、極端に安いわけではないですが、やはり主流は経年式で、現地で乗合バスに転用されるハイエースバンやライトエースバン、ボンゴバンといった商業目的の車両が圧倒的に多いようです。一般車としては、道路事情から4WDが好まれ、ランドクルーザープラドやハイラックスサーフ、また初期型のRAV4などの人気が高いようです。燃料系で言えば、ガソリン車が多く、ディーゼル車やHVは極めて少ないようです。
同国について、近年注目されているのがスマホやパソコン、また電気自動車(EV)のリチウムイオン電池などに利用される希少金属のコバルトの生産量が、実に世界の70%を占めているということです。前回のレポートでも紹介しましたが、EVに関しては、発火の危険性や寿命年数の短さ、劣化のしやすさ、温度変化に弱さなどの弱点が露呈し、コバルトフリー化の動きも見られますが、とは言え、多くの国が再生可能エネルギーに軸足を移し、現代の技術には欠かせない金属であることから需要が減ることは考え難く、同国成長の核になることは間違いないでしょう。
ここがPOINT!
現状、東部では武装勢力との紛争が続き、また資源開発では、児童労働が指摘されるなど、未だ問題は山積していますが、近年は世界の監視が強まっていることや、豊富な資源を目当てに海外の企業が多く進出するようになって経済が活性化し始めています。それにともなって、治安も徐々に改善されるなど、全体的には良い方向に進んでいることからも、今後、大いに期待を寄せても良いのではないでしょうか。
2024年6月号