本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【新車販売が回復に向かうと思われた矢先、新たな不正が。。。】
【大きな転換期を迎えた整備業界の今】
【日本から輸出される171の仕向国の中でも異色の存在、ナイジェリアに注目】
1 自動車流通のトレンド
【新車販売が回復に向かうと思われた矢先、新たな不正が。。。】
生産停止となっていたダイハツ工業が、5月7日に国内4工場をすべて再開したことから、車両の生産・出荷停止の影響が和らぎ、5月の新車販売実績が今年に入って、初めて減少幅が1桁にとどまった矢先、国土交通省は同月末、自動車メーカー4社と2輪メーカー1社で型式指定の認証試験に不正行為があったことを公表しました。これからやっと新車販売は回復に向かうと思われた中で、水を差すことになった、この問題について今回レポートします。
【不正が明らかになった現行生産車5車種の影響】
今回、不正行為が発覚した自動車メーカーはトヨタ、ホンダ、マツダ、スズキの4社で対象車種は35車種にも及びます。ただ、そのうち生産が終了した車種がほとんどを占め、現在生産されている車種は5車種でした。この5車種については、公表から1週間以内に生産・出荷・販売がいずれも停止になっています。
具体的にこの5車種とは、トヨタでは小型SUVの「ヤリスクロス」と、ロングセラー車の「カローラフィールダー」「カローラアクシオ」とマツダのスポーツカー「ロードスターRF」とコンパクト車の「マツダ2」となります。この中で最も影響を受けそうなのが、「ヤリスクロス」です。同車は人気車種で各ディーラーにとっては稼ぎ頭である一方、受け皿となる車種がなく、現状でも受注残が多く、長納期化していましたが、今回の件でさらに納期を遅らせることになります。また、「カローラフィールダー」「カローラアクシオ」も国内で人気がある車種ですが、中古車輸出では鉄板の車種で、今回の件で、新車の生産・販売が止まると、同2車種の下取車の発生も減少しますから、中古車相場も高騰することが予想され、アフターマーケットにも影響が及びます。
マツダの「ロードスターRF」と「マツダ2」については、販売台数の絶対数が少なく、また同メーカーの売れ筋はSUVのため、影響は限定的だと思いますが、とは言え、「ロードスター」は長年、同メーカーを牽引してきた車種ですから、ブランドイメージを大きく損ねることになりかねません。
自動車メーカー4社の不正内容
【今回の問題と年初からのダイハツ問題で24年の新車販売台数は、危険水域の450万台を大きく下回ることは必至】
さて、今回の不正問題が今後の新車販売にどれほどの影響が生じるのでしょうか。ちなみに昨年は、トヨタの当該3車種で約13万台、マツダの2車種で2万台、5車種合計で年間約15万台の販売実績がありました。月間単位では約1万2500台、全乗用車の5.7%を占めます。
今のところ、両メーカーとも7月以降も工場を停止し、8月以降の再開は未定としています。恐らく9月以降に何とか再開にこぎつけるといったのが現実的ではないでしょうか。それまではダイハツと同様に在庫車を処分して凌ぐしか手段がありませんが、仮に再開したとしても、ダイハツの5月実績が前年の半分にも満たなかったように、前途多難な先行きが予想されます。
またトヨタでは不正の発覚した車種ではありませんが、今年発売を予定していたクラウンシリーズの4車種目となるエステートの生産・発売時期を延期すると発表しています。こういったことにも影響が波及するなど、今年は年初からのダイハツ問題も含め、新車販売台数は危険水域である450万台を大きく割り込むのではと懸念されます。
ここがPOINT!
今回の件で印象的だったのは、国交省側では「虚偽データ」としているところを、メーカー側は「データ不備」としていることです。記者会見でもメーカー側は「国の制度で求められていた試験の方法やデータとは逸脱しているが、車の安全性や性能には問題がないという認識だ」とのこと、聞き方によっては極端ですが「不正はしたけど、車の安全性や性能に何ら問題はないのだから、何がいけないの?」と開き直っているように感じたのは筆者だけでしょうか!?
2 中古車流通のあれこれ
【大きな転換期を迎えた整備業界の今】
中古車流通とは深い関わり合いのある整備業界ですが、令和2年4月に特定整備制度が導入されて、本年3月に経過措置期間が終了し、現在、大きな転換期を迎えています。改めて、日本自動車整備振興会連合会(日整連・竹林武一会長)が発行した、令和5年度版「自動車整備白書」(令和4年7月から令和5年6月までの実績)から整備業界の今をレポートしてみます。
【新車の長納期化で継続検査台数が過去最大となり総整備売上を底上げ】
この整備白書によれば、令和5年度の総整備売上高は5兆9072億円となりました。これはピーク時だった平成7年度の6兆5693億円には及びませんが、平成18年度(6兆945億円)以来、17年振りの高水準となっています。好調だった要因としては、全体の半数近くを占める車検整備が前年比5.4%増の2兆4751億円と7年連続で増加したことが挙げられます。これについて、整備白書では「新車供給問題は改善に向かいつつあるものの解消にまでは至っておらず、いまだ新車の代替ができないユーザーが、代替予定車両の継続検査をやむを得ず受検するなどの法定需要の下支えがあった」と分析しています。
ちなみに今回の調査期間には、ダイハツの認証不正や最近発覚したトヨタをはじめとする自動車メーカーの不正の影響は含まれていません。今後、これらの不正によって、改善に向かいつつあった新車供給問題は、逆に悪化してしまいますので、次年度の令和6年度は継続検査台数がさらに記録を更新し、総整備売上高は久々の6兆円超えになると見込まれます。
あと特筆すべき点は、事故整備が同比1.8%増の1兆219億円となり、2年連続で1兆円を超えたことです。近年は先進運転支援システム(ADAS)の普及によって交通事故件数が減少し、さらにコロナ禍で交通量の減少も加わり、1兆円を下回っていましたが、このところ経済活動の再開に伴って回復をみせています。
整備売上高と事業場数の推移
【整備業界も〝ヒト・モノ・カネ〟すべてに、経済環境や法改正の一時的な影響が…】
23年6月末時点での事業場数は9万1849ヵ所で、前年に比べ138ヵ所とわずかではあるものの2年連続で増加となりました。整備要員数も39万9770人で、前回調査から151人ほど増え、事業場数と同様に2年連続で増加しています。また、生産性の指標となる整備要員1人当たりの年間整備売上高の平均も、同比2.9%増の1485万7千円と2年連続で増加しています。
また、整備要員の平均年収も同比3.2%増の417万3千円と11年連続で上昇し、過去最高額となりました。伸び率も平成5年度の調査以降で、最大となります。しかしながら、全産業の平均である458万円は相変わらず下回っています。
以上のように、整備業界においても〝ヒト・モノ・カネ〟すべてに、経済環境や法改正の一時的な影響が及んでいることが分かります。
ところで、特定整備制度が令和2年4月に施行され、4年間の経過措置期間が今年3月に終了しました。国土交通省がまとめた累計の認証件数は、5万7349件で認証工場全体に占める割合は62.4%でした。当初、国は7割を目指していましたから、目標には届いていない状況です。
平成15年~令和5年 整備業界諸表
ここがPOINT!
新たな設備投資や人材の確保、後継者問題等々で苦戦している事業者の中には、特定整備制度導入を機に廃業、もしくは企業譲渡するケースが増えたようです。これまで整備事業も営んでいた中販店さんでも、外部委託する事業者が増えています。整備業界はこのところ、わずかなら上昇傾向にはありますが、確実に新陳代謝は起きているようです。
3 どうなってるの中古車輸出
【日本から輸出される171の仕向国の中でも異色の存在、ナイジェリアに注目】
前回のコンゴ民主共和国(以下DRコンゴ)に引き続き、今回もアフリカ地域の注目国ナイジェリア連邦共和国(以下ナイジェリア)にフォーカスしてみます。
同国はDRコンゴ同様に左ハンドル右側通行の国ですが、DRコンゴとは異なり、右ハンドル車が通行できない国です。また、日本から輸出されている中古車は乗用車ではなく、ほぼトラックやバンに特化しているなど、多くの仕向国の中でも極めて稀な国だと言えます。輸出に関する情報やプレーヤーの絶対数が少なく、謎めいた国ですが、近年、日本からの中古車輸出台数が飛躍的に拡大し注目されています。
【現状は「低中所得国」だが、
将来的には世界最大規模の経済大国への成長が期待される国】
ナイジェリアはアフリカ大陸西南部に位置し(別表③参照)、人口は2億1千万人を超え、アフリカ地域では最大の国です。また国民総生産(GDP)は、22年に4,774億US㌦に達し、南アフリカを抑え、同地域ではトップに君臨しています。このように人口と経済規模から、近年は「アフリカの巨人」と称されることが多いようです。ただ急激な人口増加もあり、22年の一人当たりの名目GDPは2,163US㌦(世界153位)で世界銀行の所得水準別分類では「低中所得国」に属しています。とは言え、同国は世界最大クラスの経済大国になると考えられているネクスト11にも含まれるなど市場の潜在性は高いと見られています。
交通網については、1980年代以前は、かつての宗主国であるイギリスが敷設した鉄道網が機能していましたが、インフラの維持に手が回らず荒廃してしまい、現在は自動車に依存しています。そういう背景もあって、20年時点で自動車保有台数は約1,130万台でアフリカでは最大と推定されています。 同国の場合、正確な実績値の発表がないので、あくまでも推定値となりますが、新車、中古車を合わせた自動車の年間販売台数は22年で72万台前後でした。
この年間販売72万台のうち、自国での生産している新車はわずか1万4千台で、残りはすべて輸入に依存しています。ちなみに新車輸入は3万台で、残り67.6万台は米国、欧州からの中古車となっています。興味深いのは、欧米から輸入される中古車(乗用車)が圧倒的にトヨタ、スズキと言った日本車ブランドが占めている点です。
別表③
【原則、日本の右ハンドルの中古車は輸入できないが、それでも今後も増え続ける市場背景】
さて、日本からナイジェリアへの中古車輸出実績ですが、別表①の通り、近年、飛躍的な成長を遂げており、23年は19,599台の実績で過去最高を更新し、また171の仕向国中23位と上位にランキングしています。輸入側からみれば、日本の中古車の割合は、全中古車に対して、2.5%とわずかですが、商業車としては、圧倒的に日本の中古車が占有しています。ただ、商業車と言ってもかなり年季の入った中古車であり、FOB価格は20万円と異常に安く、171ケ国中、同じ商業車に特化しているフィリピンに次ぐ安さとなっています。
ナイジェリアの自動車産業は前述の通り、中古車輸入に依存していますが、右ハンドル車に関しては原則的に輸入することはできません。しかし別表②の通り、日本から確かに右ハンドル車と思われる中古車が輸出されています。別表②※1は、20年落ち前後タウンエーストラックやライトエーストラックなどで、同※2の多くはエブリィバン、その他にも、アクティバンやハイゼットカーゴなど(軽バンは乗合バスに転用されている)、いずれも低年式車です。
これらはすべて右ハンドル車で厳然と輸出されています。と言うことは、どこかでハンドルが右から左へとコンバージョンされていると思われますが、FOB価格の安さから、到底日本でコンバージョンしたとは考え難く、フィリンピン同様に現地のフリーゾーンに入って、そこでコンバージョンした上で、国内登録されているものと推察されます。
別表① 2002~2023年ナイジェリアへの中古車輸出台数推移
別表② 2023年日本からナイジェリアへ輸出された自動車の分類表
ここがPOINT!
現在アフリカ地域では、SDGsの取り組みの一環として、貧困層の小規模事業者にも積極的に少額での事業融資をするマイクロファイナンスも広がりつつあります。仮にこれがナイジェリアでも普及するようになれば、今まで以上に、日本から中古車を輸入し、乗合バスやタクシー、ライドシェアなどで起業する若者が増え、同国の経済成長を支えていくことを可能にさせます。そうなれば、日本からの中古車輸出も右肩上がりで成長していく可能性が見えてきます。
2024年7月号