本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【厳しい事態に直面している新車販売の上期を振り返る】
【玉不足と相場高騰に見舞われた2024年中古車市場上期の振り返り】
【順風だった中古車輸出に逆風の兆しが。。。】
1 自動車流通のトレンド
【厳しい事態に直面している新車販売の上期を振り返る】
2024年上期(1~6月)、登録車と軽自動車を合わせた、新車販売台数は前年同期比で13.2%減の212万7490台となりました。これは日本自動車工業会のHPで確認できる1993年以降の記録だと、東日本大震災によって減産を余儀なくされた11年上期の191万9245台と新車不足が深刻だった22年上期の208万6178台に次ぐ3番目の低水準です。この大きなマイナスの要因は、やはりダイハツの認証不正問題であり、今年に入って、何度かこの問題についてレポートしていますが、今回、上期の新車販売実績が明らかになったことで、改めて振り返ってみたいと思います。
上期(1~6月)新車販売実績 2024年VS2023年比較
【上期だけでダイハツとトヨタの両ブランドで38万台が前年実績から消失】
今年は年明けに発生した能登半島地震によって、サプライヤーなどが被災し自動車生産で少なからず影響を与えましたが、やはり大きな痛手となったのは、昨年末のダイハツの認証不正問題で、同社の全工場が稼働を停止、また同社からのOEM(相手先ブランドによる生産)供給も停止し、さらには豊田自動織機でもエンジン認証不正が判明するなど、これらの問題による出荷停止が新車販売に大きくブレーキを掛けました。
ブランド別に見ますと、全工場が稼働停止となったダイハツが、在庫車頼りに販売を展開しましたが、前年同期比で61.3%と大幅に減少。台数にすると前年から実に19万1444台(*1)も減少しています。トヨタも分母こそ大きいので、同比では23%の減少ですが、台数にするとダイハツとほぼ同数の19万296台(*2)も減少しています。両ブランドだけで上期は38万台も前年から販売台数が消失しました。
ちなみに日系ブランドを除く輸入車については、前年同期比で7.1%の減少となっていますが、これは輸入車ですから国内の出荷停止とは関係なく、中東情勢による海上輸送の不安定から生じた輸送の遅延によるものです。(*3)
上期(1~6月)新車販売実績 ブランド別2024年VS2023年比較
【ダイハツは主力車種の「タント」と「ムーブ」2車種でダメージを占有】
車種別では、ダイハツの主力車種である「タント」が前年同期には8万85台(*4)販売されていたのが、今年は2万7767台と前年増減比で65.3%も減少。「ムーブ」に至っては前年の6万2091台が9084台まで落ち込み、まさに85.4%(*5)もの減少となりました。この2車種だけで10万台強の減少となっています。
ただ、5月の連休明けから全工場が稼働を再開し、回復に向け動き出していて、6月単月の実績では、「タント」は1万1933台(前年同月比18.1%減)まで回復を遂げ、全体の車種別ランキングでも5位に返り咲いています。
あと気になるところで言えば、6月に判明した型式指定申請における不正行為で現行5車種が生産停止となり、現時点でもトヨタの3車種については、8月末まで停止を継続する方針を明らかにしていますが、すでに「ヤリスクロス」が含まれる「ヤリス」の販売に影響が生じています。(*6)
上期(1~6月)新車販売実績 車種別2024年VS2023年比較
ここがPOINT!
はたして、下期に巻き返しが図れるかと言うことですが、6月単月実績だけ見れば、ダイハツが全面再開となったことで、全体が前年同月比でわずか4.9%減の37万3599台でしたので、回復に向かっていると言えます。特に軽自動車は同0.7%減と健闘しました。今後トヨタの問題はありますが、対象車種の絶対数はさほど多くはないので、それほど影響を受けることなく、徐々に回復していくのではないでしょうか。取り敢えず、明日発表される7月の新車販売実績に注目して、回復の度合いを確認していただければと思います。
2 中古車流通のあれこれ
【玉不足と相場高騰に見舞われた2024年中古車市場上期の振り返り】
今回は上期の中古車登録台数&届出台数とオークション実績が明らかになりましたので、今年前半の中古車市場を振り返ってみたいと思います。
最近、中古車小売店さんから「仕入れが難航し、展示場がここまでスカスカの状態になっているのは初めて」との声を多く聞くようになりました。今回紹介する実績より、実際の現場では、さらに厳しい状況になっているようです。
【中古車登録・届出数は意外にも前年並み。しかし内情は…】
日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽自協)が発表した24年上期の中古車登録・届け出台数は336万4462台と意外にも前年同期比をわずか0.8%ほどですが、増加しました。ダイハツの認証不正問題で、新車供給が低迷し、中古車(下取車)の発生量が減少したにも関わらず、前年を上回ったのは、あくまでも推測の域を出ませんが、コロナ禍で新車供給が低迷した22年と同様に、新車の代替ユーザーが新車を諦め、中古車に乗り換えたケースが増えたのではないかと思われます。実際に新車ディーラーでは、「中古車の販売台数は前年を上回っている」というディーラーが多く、希少な下取車をオークションに出品せず、直接小売するケースが増えているようです。
前項でも紹介していますが、下期については、すでにダイハツの新車供給が回復に向かっていますので、軽自動車の中古車を中心に発生量は上向いていくと思われます。ただ、中古車市場は新車市場の変化が数カ月遅れで波及していくので、その点は気を付けて見守る必要があります。
上期(1~6月)中古車登録台数&届出台数実績 2024年VS2023年比較
【出品台数が減少しても中古車輸出が好調で成約率、平均単価が急上昇】
一方、上期のオークション実績は、新車供給低迷の影響が直撃しました。ユーストカー社の発表によりますと、出品台数は前年同期比の9.1%減の375万1988台で、台数にして37万7543台もマイナスになっています。しかし、成約台数は出品が大きく減少したにも関わらず、同比2.1%増の269万3917台と前年を上回り、相場を示す平均落札価格も827千円と前年を128千円も上回っています。
この傾向は何と言っても、中古車輸出が絶好調であったことが大きく影響しています。現時点では、中古車輸出の上期の実績が発表されていませんから、確定ではありませんが、恐らく80万台前後になりそうで、これは過去最高を更新した前年の72万8240台をさらに1割上回る数値であり、それが成約台数の増加に反映されています。また、平均落札価格の急上昇は、ロシアへの第三国を経由した規制対象車の需要拡大によるところが大きいと言えます。この規制対象車は高年式の高額車ばかりで、今や月間平均で1万台前後にも達していて、これが落札価格を一気に押し上げています。
結論としては、認証不正問題によって、中古車の発生量が減少した上に、中古車輸出が好調を維持しているため、国内小売りをかなり圧迫した上期であったと言えるのではないでしょうか。
上期(1~6月)オークション出品台数・成約率・平均落札価格 2024年VS2023年比較
ここがPOINT!
次項で詳しく紹介していますが、実はここにきて、中古車輸出が海運事情によって、一気にブレーキが掛かりそうです。特にコンテナで輸送する経年式車は大きな影響を受けます。逆に国内小売りにとっては、今後中古車の発生量も拡大していきますから、下期は期待できるのではないでしょうか。
3 どうなってるの中古車輸出
【順風だった中古車輸出に一転して逆風の兆しが。。。】
中古車輸出は22年10月から24年4月まで、実に19ケ月間連続で前年同月比を上回り、好調に推移していましたが、一転して今、ブレーキが掛かり始めています。
これは世界貿易の8割を担う海運で、要衝となるスエズ運河とパナマ運河が同時に危機に見舞われ、これによって航路変更や貨物の滞留が発生、船舶供給の大幅な減少と輸送コストが急激に上昇しているからです。世界各国の日本の中古車に対する旺盛な需要自体は減退することはありませんが、何分「運べない」という事態が、現在生じています。今回はこの現状を緊急にレポートします。
【親イラン武装組織フーシ派の商船攻撃でスエズ運河の通航量が激減】
事の発端は、昨年10月のイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突に起因します。翌11月にはハマスに連帯を示すイエメンの親イラン武装組織フーシ派が日本郵船の自動車船を拿捕し、それ以降、紅海を通過する商船を攻撃し始めたことで、海運に混乱を生じています。
未だこの紛争の解決の糸口が見いだせていないため、この混乱も長期化の様相を呈していますが、最近では、フーシ派のミサイルやUAV(無人航空機)の射程が2000km以上で、西インド洋の奥深くまで到達する可能性があることから、喜望峰を迂回する船舶にも攻撃に注意する必要が生じているなど、危険水域は日を追うごとに広がっているのが現状です。
それではこの状況が、日本からの中古車輸出にどのような影響を及ぼしているのかと言えば、単純にこれまで紅海を航行し、スエズ運河を通過するとすぐ目の前にあったキプロス(23年仕向国ランキング13位)や、さらに黒海を経由するジョージア(同22位)、地中海を経由する英国(同15位)などの上位国が、スエズ運河の通過を回避し、遠く喜望峰を迂回しなければならなくなります。その迂回する距離は実に8000kmにも及び、延着やコストアップのなどの影響が発生します。但し、今年5月までは前述3ケ国の輸出実績を見る限り、大きな影響は受けていません。これは攻撃を受けない船舶を選択しているからだと思いますが、それも5月までのこと。6月以降、今年一杯まで、かなり厳しい状況になりそうです。その事情については後述することにします。
紅海を通過する船舶の通航量7日間移動平均 直近2年間の比較
【気候変動によるパナマ運河の通行規制で世界の物流が混乱】
二大運河のうち、スエズ運河は紛争による混乱ですが、太平洋と大西洋を結ぶ要衝パナマ運河では、天災によって混乱が生じています。これはエルニーニョ現象による少雨によって、水位が下がってしまい、23年7月から通行制限に踏み切ったことが起因しています。これによって、船舶の通過待ちで渋滞が頻発し、一部の船は代替ルートとして、大西洋からスエズ運河を経由するルートに切り替えて対処していたものの、中東で紛争が起きると、さらに遠回りの喜望峰経由になるなど混迷の度合いを深めています。
これによって、ジャマイカ(23年仕向国ランキング12位)、ガイアナ(同22位)や上位25ケ国には入っていませんが、ドミニカ共和国やバハマといったパナマ運河を通過しなければならないカリブ諸国や南米に影響が出ます。ただ輸出台数としては、いずれの国も好調だった昨年実績とほぼ変わらぬ台数を維持していて、一見して影響を受けていないようにも見えますが、確実に輸送コストは上がっているので、利益を圧迫していることは間違いないようです。
【ここにきて負のスパイラルが加速。一気に配船の減少と運賃の高騰に。。。】
今回の海上輸送の混乱は、ここにきて世界のハブ港(海上運送の中継拠点となる港)で混雑状況を一気に悪化させています。港では船舶の「パンチング」(数珠つなぎ)状態が発生しています。これにより、積み替え作業に1ケ月近くもかかるケースも出てきて、迂回した上に港での滞留日数も増えているので、最終目的地への航海日数が長期化する傾向が際立ってきています。さらにこうした事情によって当然末端への供給が停滞してしまう訳ですが、これを懸念し小売業者が商品を早めに手に入れようとする動き「ブルウィップ効果」も発生、また米国をはじめ欧州などの各国が対中国貿易で関税を引き上げるなど規制を強化していることから、それに対して中国では、駆け込みで輸出をしようとしているので、世界のコンテナの多くが中国に集中し、コンテナ運賃の高騰に拍車をかけているなど、ここにきて、負のスパイラルが一気に吹き出したことで、好調だった中古車輸出に急ブレーキをかけています。
ここがPOINT!
今回紹介したような状況により、船の回転率は著しく低下し、配船を極端に減少させ、また航海の長期化で、燃料代や人件費も嵩み、このコストアップを荷主に転嫁するため、輸送運賃は現在一気に跳ね上がっています。これまでは利益を圧迫しても何とか輸出していた事業者も、さすがに耐えきれない状況に見舞われています。
2024年8月号