top of page

業界レポート9月号 Vol.58



本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。


執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡


 

▼目次


【7月の新車販売は7ヶ月ぶりにプラス 新車輸出上期実績は前年並み】


【暴騰を超えて熱波相場となっている国内中古車相場も今後は下降局面か。。。】


【2024年中古車輸出上期の総括と下期の展望】


 

1 自動車流通のトレンド

【7月の新車販売は7ヶ月ぶりにプラス 新車輸出上期実績は前年並み】


 今年に入ってメーカー各社の認証不正問題によって、低迷が続いていた新車販売ですが、7月は7ヶ月振りに前年同月比でプラスに転じています。また新車市場の大きな3つの指標のうち、先月の販売に続き、輸出に関して上期の実績が発表されました。今回はこの2つの項目についてレポートします。


【ダイハツが大幅に増加するものの、回復までには届かず】


7月新車販売ブランド別実績

( )内は前年同期比 出所:日本自動車工業会

 登録車と軽自動車を含めた7月の新車販売台数は40万5174台で前年同月比は6.9%増と今年初めてのプラスとなりました。登録車は26万3194台で、わずか3.9%増でしたが、軽自動車は14万1980台で同比12.9%増と二桁伸張となり健闘しました。

 特に5月から工場が全面稼働したダイハツの7月販売は、4万2046台と同比31.4%増の大幅な増加となっています。4月に生産を再開した軽乗用車「タント」などがけん引したようです。ただ、同社の場合、昨年は6、7月に仕入先の工場火災による部品調達難で国内4工場の稼働停止を余儀なくされた時期で、販売台数を著しく落としていた時の比較であり、本来同社の7月の販売台数としては5万台の実績があってもおかしくないため、完全に戻ったとは言えません。今後、ムーブなどの新型車が投入されていけば、より回復に近づいていくと期待されます。

 その他のメーカーは軒並み前年を上回っていますが、マツダは認証不正の問題からか大きく落としています。新たな認証不正が発覚したトヨタは登録車でわずかに1.3%ほど前年を下回りましたが、トラックやバスが健闘し、前年並みを維持しました。

 未だ問題は山積していますが、8月以降もこの勢いを継続してもらいたいものです。


【上期の新車輸出は好調だったが、下期は海運の動向と為替変動次第でブレーキが。。。】

 日本から全世界に輸出された上期(1~6月)の新車台数は201万7660台で、コロナ禍から回復を遂げ好調だった前年と、ほぼ同じ(99.71%)実績となりました。また上期は円安基調だったので、メーカー各社は相当利益が向上したものと思われます。ただ、6月単月実績をみると大きく減少しています。これは海運事情の不安定さによるものと思われます。新車の海上輸送には、ほぼ自動車専用運搬船(PCC)が利用されるため、RO-RO船(在来船)やコンテナ船と比べると、それほど影響は受けませんが、それでもヨーロッパやアフリカ向けでは大きく影響を受けています。

 現時点では、海運の不安定さの解消は期待できず、下期は減少傾向が続くとみられます。さらにこれに円高が加わるとかなりブレーキが掛かるのではと懸念されます。最近、港湾関係者から、「新車を運ぶPCCの船腹が空き始め、そこに高額な中古車を積んでいるケースをよく見かける」との情報も入っています。今後、海運と為替の動向から目が離せません。


2024年新車輸出上期実績&6月単月実績

( )内は前年同期比 出所:日本自動車工業会
 

ここがPOINT!

 

 

 7月の新車販売の好調さが今後も続けば、多少インターバルがあっても下取車が中古車市場に流通されるようになり、中古車の熱波相場も多少熱が冷めてくれることが期待されます。今後も引き続き、新車販売実績の動向に注視していただければと思います。


 

2 中古車流通のあれこれ

【暴騰を超えて熱波相場となっている国内中古車相場も今後は下降局面か。。。】


 このレポートを執筆しているのは、お盆明けの8月中旬ですが、未だに中古車相場は熱波が継続しています。ただ、前項で紹介したように7月は新車販売が好調だったこと。また次項では、中古車輸出の下期が厳しい予測をしていますが、このような様々な条件が重なって、今後は熱波相場も下降局面に突入するのではないかと推測しています。大変難しい問題ではあるのですが、今回は今後の相場の傾向について、分析したいと思います。


【今年の相場は22年、23年の歴史的暴騰を遥かに超えた熱波相場】

 これまでも何度かこのレポートで紹介していますが、㈱ユーストカーさんが運営されているWEB「ユーストカードットコム」のトップ画面で毎週更新されている7日間移動平均の「中古車相場動向(国産車のみ)」を今回も紹介させていただきました。これを一見していただければ、いかに今の相場が“熱波”であることがご理解いただけるかと思います。黄色の実線は23年実績で、グレーの実線が22年実績ですが、いずれもマスコミ等で「歴史的な暴騰」と騒がれていたのは、皆さんもご記憶にあるかと思います。それを遥かに飛び越えているのが、赤字太線の今年の実績です。8月に入って、例年通り、下降局面には入りましたが、それでも100万円を超えているような状況です。

 これも再三述べていますが、平均車齢や平均使用年数、代替サイクルがかなり短かった30年前であれば、十分納得できる数値ですが、経年式が圧倒的に多い今の時代、この相場は正に熱波相場と言う以外、言葉がみつかりません。

 肝心な今後の相場動向ですが、一応、赤の点線で示しましたが、23年よりも傾斜をきつく、22年とほぼ同様に下降していくのではないかと予測しています。


7日間移動平均の相場推移グラフ(国産車のみ)

赤点線は自流研予測 出所:㈱ユーストカー

【近年、旺盛な需要があった中古車輸出が減退し、相場は下降局面へ】


 具体的には、未だに不安定感は否めないものの、期待を込めて8月以降の新車販売(登録ベース)が7月実績並みに推移していくと仮定すれば、9月以降はオークション流通量の拡大が期待できます。こうして供給量が回復する一方、熱波相場を大きく構成してきた中古車輸出の旺盛な需要が、ここにきて大きく減退する傾向が生じていますので、かなり高い確率で今後熱波は冷めていくと思われます。輸出需要減退の理由は、次項で詳しく紹介していますが、海運事情と円高の問題です。海運事情はここにきて少し緩和されはじめ、ピークアウトは過ぎたと思われますが、予断を許さない状況は続いています。また為替は、この1ケ月、乱高下しています。為替リスクは中古車輸出では織り込み済みのリスクで長期的には影響はありませんが、短期的には買い控えが生じますので影響が生じます。

 また海運事情や為替に関係なく、長年、高年式、高額な中古車が輸出されていた上位仕向国のバングラデシュで、8月6日に政権が崩壊しました。暴動が起きた7月の段階では、日本からの中古車輸出にはさほど影響はないと見られ、実際に8月盆明けの相場では影響が見受けられませんでしたが、崩壊以降は「車両登録ができない」、「銀行から現金を引き出せない」「エンドユーザーやコンサイニーから入金がない」とシッパーから困惑する声が多く聞かれるようになっていますから、今後影響は必至かと思われます。

 このような想定外の事象や、為替が乱高下を繰り返したり、予想より大きく円高に振れたりといったことがあった場合、前述した予想以上に相場が急降下する恐れがありますので、ご注意ください。

 

ここがPOINT!

 

 8月23日に開催されるジャクソンホール会議でのパウエル議長の発言に注目をしておいてください。年末に向けた金融政策の行方について講演し、これによって、為替が大きく動く可能性があります。残念ながら、この原稿を校了した時点では、発言内容がわからないので、何とも言えませんが、円高に振れそうな気配がします。


 

3 どうなってるの中古車輸出

【2024年中古車輸出上期の総括と下期の展望】

 今回は先般、財務省貿易統計から、6月までの中古車輸出累計実績が発表されましたので、上期の総括と下期の展望をレポートしてみます。


【上期の総括】


 24年上期(1~6月)の中古車輸出台数実績は77万5274台でした。これは大幅に記録を塗り替えた昨年同期の72万8240台を4万7千台ほど(6.5%増)上回っています。この実績だけをみる限り「上期は好調だった」と評価することができますが、しかし4月までの累計実績では、前年の17%増と二桁伸張の勢いがあったのが、わずか2ケ月で10%強も一気に急降下している現実に目を向けなければなりません。決して状況は良いとは言えないのです。

 具体的な急降下の原因は6月の単月実績によるもので、前回のレポートで詳しく紹介しましたが、改めて端的に言えば、昨年からの中東情勢の混乱と自然災害によって、世界の要衝となる二大運河で通航制限が生じ、それがここにきて様々な弊害を生じさせ、配船の大幅な減少と海上運賃の高騰によるものです。さらに5月14日にバイデン大統領が対中国貿易で関税の引き上げを宣言したことで、中国発の駆け込み需要が一気に拡大し、コンテナ争奪戦が展開され、コンテナ運賃を垂直的に上昇させる引き金になりました。


 仕向国別にみていきますと、上期トップとなったのはアラブ首長国連邦(UAE)で前年の2割増しの11万1429台となりました。上期だけで10万台を超えるのは初めてのこと。同国は、ほぼコンテナ輸送で低年式の低価格車輛が中心となりますが、アフリカや中近東需要の高まりで、上期は記録的な実績となりました。

 2位のロシアは前年を2割以上減少させ、9万5978台で逆に10万台を割り込んでしまっています。(前年は12万3683台)しかしこの台数は、1900CC以下のガソリン・ディーゼル車だけで積み上げています。昨年8月の経済制裁によって、1900CC以上のガソリン・ディーゼル車やHVと言った規制対象車を直接輸出できなくなり、非規制対象車だけで、これだけの台数を輸出しているのは、ある意味凄いことです。

 3位には、長年定位置だったニュージーランドを抜いてモンゴルがランクインしました。輸出台数は前年同期比77%アップの5万9335台ですが、実際に同国内での需要としては、3万台からせいぜい3万5千台が限界です。それでは、残りの2万5千台から3万台はどこに消えているかと言えば、ほぼロシアへ再輸出されていると見られています。


2023年vs2024年中古車輸出台数 上期(1月~6月)実績比較

出所:財務省貿易統計

【下期の展望】


 さて、下期の展望についてですが、まず海運事情については、徐々にではありますが緩和される傾向が見受けられます。とは言え、大幅な改善は期待できないので、下期については、総体的に厳しい状況が予想されます。

 さらに、現在輸出には不利な円高の問題が浮上しています。直近で1㌦≒160円だったのがわずか1ケ月で140円近辺まで円高に振れたのだから影響が出ないことはありません。ただ、業界の重鎮に話を聞くと「かつてリーマンショック時には90円を切り、その後11年には75円まで円高に振れたことがあったが、私はそれによって国内の輸出事業者がつぶれたと言う話を聞いたことがない」とした上で「為替変動で日本の中古車の評価が下がることは決してない。最終的に為替差損は仕向国のエンドユーザーが負担するもので、今回のように急激に円高に振れれば、確かに怒りを露わにするが、常態化すれば何事もなかったように再び購入するようになるので長期的には織り込み済みのリスクであり、心配する必要はない。但し、一時的に買い控えは起こるので、短期的には厳しい局面にはなる」とコメントしてくれました。


 仕向国別では海上輸送がほぼ9割以上をコンテナ輸送が占めるUAEの下期は上期から一転して、大幅な減少が予想されます。また、海運事情や為替に関係なく、8月6日に政権が崩壊したバングラデシュはかなり厳しい状況に追い込まれるでしょう。逆に下期も順調に台数を伸ばすのは、第3国を経由して再輸出される規制対象車も含めたロシアだと思われます。



中古車輸出台数実績 直近5年間の年間推移と2024年予測


出所:2019年~2023年 財務省貿易統計 2024年 自流研の予測
 

ここがPOINT!

 

 24年通年の見込みとして、当初は上期の勢いが継続され、160万台超えは固いと思われていましたが、下期がかなり厳しい局面になったことから、最終的に140万~150万台が着地点になるのではないかと思われます。


2024年9月号

閲覧数:768回

関連記事

すべて表示
bottom of page