本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【24年上期の自動車生産台数実績は、再び400万台を割り込み危険水域へ】
【自動車の高齢化が進む中、卸・小売とも中古車価格が高騰する矛盾】
【自動車船の今後の船腹事情について】
1 自動車流通のトレンド
【24年上期の自動車生産台数実績は、再び400万台を割り込み危険水域へ】
自動車産業の動向を見守る上で、重要な3つの指標は自動車生産台数、新車販売台数、新車輸出台数ですが、上期(1~6月)の実績について、販売は7月、輸出については8月に、日本自動車工業会(片山正則会長)から、それぞれ発表され、このレポートでも分析しました。残りの自動車生産台数の上期実績が9月初旬に発表され、これですべて出揃いました。認証不正問題で揺れた自動車生産の上期実績について、今回レポートしてみます。
【日本の基幹産業である自動車産業が 認証不正問題で生産台数を著しく低下】
24年上期の自動車生産台数の実績は、3,894,247台でした。前年同月比で90.0%と、ちょうど1割の減少となっています。これは明らかに、一部の乗用車メーカーによる認証不正問題によって、工場での生産が停止したことが、大きく影響したといえます。
車種別では、乗用車がトヨタやダイハツが大きく減少したことで同比90.9%、トラックも4年振りにマイナスに転じ、同比83.9%となりました。これは、ダイハツの「ハイゼットトラック」の生産が一時的に止まったことが影響しているようです。ちなみに、絶対数は少ないですが、バスも3年振りに減少しました。
この実績は、コロナ禍での行動制限や半導体不足によって危険水域に陥った20年~22年実績と同等のレベルです。折角、昨年はコロナ禍から脱却し、回復に向かっていた矢先のことですから、ある程度、想定内のこととは言え、大変残念な結果でした。
自動車産業は製造業全体の2割を占め、雇用も全就業者の1割、また貿易黒字にも大きく貢献するなど、日本経済・社会の中核を担っている基幹産業にも関わらず、その産業が極めて厳しい状況に陥っていることを示す上期実績だったと言えるでしょう。
自動車生産台数実績過去5年間との推移と2024年上期(1~6月)実績
【下期も前年同期比で一割ダウンとなり、二四年通年では810万台前後か】
すでに上期実績が発表されていた新車販売と新車輸出との関連性をみていくと、販売に関しては、年明け1月から全工場で生産を停止するメーカーの影響などもあって大幅に前年を下回ってスタートし、年間で最も需要のある2月、3月に至っては前年比で80%まで落ち込みました。その後は徐々に回復はしていきましたが、それでも86.8%という厳しい結果でした。
一方、輸出に関しては、上期は円安に振れていたことや、世界的に海運事情が不安定ではあったのですが、新車輸出に関しては、日本の自動車船が確保されていましたから、中東情勢問題で多少、延着などの影響は出ましたが、好調だった前年実績をほぼ維持しました。結果的に販売の低迷を輸出がカバーし、辛うじて生産を1割の減少にとどめたと言えるのではないでしょうか。
下期に入って、すでに単月で発表されている販売と輸出の実績から、24年通年の自動車生産を予想しますと、販売は7月が工場再開の好材料もあり、久々にプラスに転じて(同比106.9%)期待されていたのですが、新たな不正問題が発覚して、8月には、再びマイナスに転じました。(同比96.5%)しかし上期ほどの影響は受けないと思われ、通年で90%強ではないかと推測しています。
一方、輸出は7月実績が航海日数の長期化から、わずかに減少しています。(同比95.4%)また今後、日米金利格差縮小により、円高の影響が出てくると思われますから、前年を上回ることは厳しそうです。90%台後半を維持するのが一杯かと。結果として、24年通年での自動車生産台数は上期同様に前年の1割ダウン、台数にして810万台と再び危険水域に陥ることは避けられそうにありません。
自動車産業重要指標 2024年上期実績
ここがPOINT!
これまでも何回かご紹介しましたが、自動車産業の健全な指標は、新車販売500万台+新車輸出500万台=自動車生産1000万台でした。近年は人口減少によって、1000万台は現実的な数値ではなくなりましたが、それでもコロナ禍や半導体不足、認証不正と言った問題がなければ、950万台のポテンシャルは十分にあります。早期にこのレベルまで回復してくれることを期待したいところです。
2 中古車流通のあれこれ
【自動車の高齢化が進む中、卸・小売とも中古車価格が高騰する矛盾】
前回のレポートでも少々触れていますが、日本が保有する自動車は年々高齢化しています。それは平均車齢や使用年数、また新車の代替サイクルの推移をみれば明らかです。一方、コロナ禍に突入した20年以降、中古車の卸価格であるオークションの平均落札価格や小売価格は高騰を続けています。高齢化の要因は、自動車の安全性や性能が年々向上してきていることで、納得できるのですが、中古車価格が高騰するのは、極めて矛盾した現象です。今回はこの現象について分析していきたいと思います。
【中古車市場へ低年式車の絶対数が増えている背景】
最新の23年のデータでは、人間の平均年齢に相当する使用年数は、あくまでも乗用車ですが9.22年となっています。28年前の95年は4.88年ですから、まさに倍になっています。また寿命にあたる使用年数も23年は13.42年で95年は9.43年でしたから、かなり高齢化が進んでいます。
乗用車の車齢・使用年数・代替サイクルの推移
【相場高騰の背景には、世界的な新車供給の低迷によって、
高年式の中古車への代替需要の高まりが…】
会員の皆様はご記憶にあるかと思うのですが、20年4月に初めて緊急事態宣言が発令され、厳しい行動制限がとられた際、一時的に中古車相場が暴落しました。しかし、5月に入ると逆に暴騰しています。これは、新車の工場が停止し供給できなくなったことで、新車の代替ユーザーは、高年式の中古車にシフトする現象が起きたからです。その後も、半導体不足や直近では認証不正問題などで、新車供給の不安定さが継続していることで、発生率自体は少ないのですが、高年式の中古車への需要が集中する現象が生じています。こうして中古車相場を示すオークションの平均落札価格はコロナ禍以降、高騰を続け、23年は72万4千円となり、28年前の水準に戻っています。ちなみに直近の7月実績では、何と88万7千円を記録する異常な状況です。市場全体は圧倒的に低年式が多い中での平均値です。車齢5年以内の中央値だと遥かに桁を超えていると思われます。
この高年式需要は日本だけの話ではなく、コロナ禍では、世界的に新車供給が低迷したことで、世界各国から新車の代替需要として、高年式の日本の中古車が求められています。この傾向は年々高まりをみせ、FOB価格(港までのコストを含めた車両価格)はコロナ以前と比べ倍になりました。直近の8月実績は過去最高の121万8千円を記録しています。
ここまで高値をつけている背景には、22年2月のロシアのウクライナ侵略以降、ロシアで国産車と中国車の新車しか供給されなくなったことで、第三国を経由してでも日本の高年式中古車を追い求めていることも大きな要因と言えます。
価格高騰が続く中古車相場と中古車輸出価格 直近5年の推移
ここがPOINT!
発生率の低い、高年式の中古車が国内だけで流通させるのであれば問題ないのですが、その多くが海外に流出しているのが問題です。最近、大手中販店の仕入れバイヤーに話を聞くと「高年式車をオークションで落札しようとしても輸出バイヤーの応札が強すぎて太刀打ちできない」と語っていました。これだけ高年式車が流出してしまうと、今後の中古車市場に不安を感じます。
3 どうなってるの中古車輸出
【自動車船の今後の船腹事情について】
このところ再三このレポートで、現在、海運事情が緊迫し、中古車輸出には急ブレーキが掛かっていることをお伝えしています。特にここにきてコンテナ船の供給が減速しています。(別表参照)そうなると頼みの綱は自動車船となります。自動車船は25年下期から新造船が多く投入されるとの話もあります。そこで今回は、今後期待される自動車船の船腹事情について、船会社の集荷協力店である㈱インターオーシャンシッピングコーポレーション(本社・東京中央区 菅井重隆社長)を訪れ、詳しい話を聞いてみました。
【新車輸出の状況に大きく左右される中古車輸出の船腹事情】
今さらですが、中古車輸出の海上輸送形態としては、大きくRO-RO船とコンテナ船に分類されます。RO-RO船には、ロシア向けやフィリピン向けのような在来船も含まれますが、圧倒的に自動車専用運搬船(以下、自動車船)のことを示しています。
自動車船は基本的に新車が優先されます。それは圧倒的な物量が担保され、取引先が自動車メーカーや商社に絞られ、年間計画をベースに効率よく受注できるからです。一方、中古車の場合だと、輸出事業者(シッパー)数が多く、発注量も小口であるため、船会社が直接交渉することはありません。あくまでも船会社が指定する中古車集荷協力店が窓口となって対応します。現在、この集荷協力店は国内に、およそ15社ほどしか存在してなく、中古車輸出台数の割には意外にも少ないように思えます。ちなみに同社もその希少な一社です。
中古車輸出輸送形態 2024年1月~7月までのRO-RO船&コンテナ船比率推移
【中国製EVに対する米国政府の大幅な
税関引き上げは日本の中古車輸出に。。。】
今後の船腹動向について、同社営業グループの岡本良紀取締役に聞いてみました。同氏は「今年は国内の新車販売台数や生産台数は認証不正などの問題もあってか、昨年に対して、それぞれ1割程度減少している。しかし、新車輸出に関しては好調だった前年並みに推移していることから、今後、日本の自動車船の船腹に関しては、期待するほど中古車に回ってくることはないだろう」とのこと。その上で「ただ今年に入って、中国や韓国の新車EVの輸出が低迷している。さらに中国製EVに関しては、米国が9月27日から関税を大幅に引き上げ、現在の4倍の100%とした。こうした動きによって、これら新車EVを運んでいた外国の船社は大きな痛手を被るが、逆に日本の中古車に関しては一時的に追い風になるのでは」と言います。要するに、船会社は日本も外国も情報を連携し、時には相互互助的に船腹を共有するところがあるようで、今回それがしばらくは期待できるのではないかということです。仮に外国船の船腹を利用した場合でも窓口は協力店であり、決済は日本の船会社となります。
【25年中頃には、順次新造船が投入され、海運問題も解消が期待】
ところで、世界では現在、自動車船の新造発注残が約200隻あり、これが25年から26年にかけて徐々に運航が開始されると聞きます。新聞報道によれば、25年に35隻、26年に71隻が竣工とのこと。そうなれば、現在の緊迫した海運事情は解消されるか尋ねてみました。「個人的には来年の下期からだと思うが、確かに順次、新造船が投入されると期待している。ただ中東情勢問題がいつ解決し、効率の悪い喜望峰回りから、スエズ運河通過の航路変更がいつから可能になるかと言った背景も考慮しなければならないので、一概には言えないが、希望的観測を含め、来年の中頃までには解消されるのでは」と回答していただきました。
ここがPOINT!
来年の中頃には、新造船が投入され、海運問題も解消されるならば、その頃になれば、自動車船の海上運賃も下がるものなのかを尋ねたところ「それはかなり厳しい」と意外な回答でした。なぜならば、20年から海洋環境の規制強化「SOx(硫黄酸化物)規制」が導入され、30年にはさらに強化されるそうですが、船会社としては、当然規制に対応した船を建造しなければなりません。ところが従来の船と比べると、その建造費は何と2.5倍になるとのことです。これはどうしても運賃に転嫁せざるを得ないという事情があるからです。同氏は「シッパーはどちらかと言えば船腹を優先している。運賃については、事情が事情なだけに理解してもらえると考えている」と語ってくれました。
2024年10月号