本レポートでは、オークネット会員様のビジネスのお役に立てますよう大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【認証不正問題に揺れた24年の新車販売も年後半には明るい兆しが…】
【廃車買取価格や低年式車の中古車輸出に影響する鉄スクラップ相場の動向】
【ロシアの現地最新情報(前半)】
1 自動車流通のトレンド
【認証不正問題に揺れた24年の新車販売も年後半には明るい兆しが…】
まだ今年を振り返るには少々早いのですが、24年は自動車メーカー各社の二度に渡る認証不正問題によって、せっかく回復傾向にあった新車販売に水を差す形になりました。
このように何かと暗い話題ばかりが先行する24年でしたが、ここにきて明るい兆しも出てきました。それは近年人気が高まっている軽自動車のSUV系スーパーハイトワゴンでスズキとホンダが新型車を投入し、これで4メーカーともラインナップが出揃ったことです。
今回はその点にフォーカスしてみたいと思います。
【9月にリリースした2代目「スペーシア ギア」と
「N-BOX」の 派生モデル「N-BOX ジョイ」】
まずはSUV系スーパーハイトワゴン市場を開拓した「スペーシア ギア」ですが、18年に「カスタム」に続く「スペーシア」の第3のモデルとして発売されています。他社に先駆けて登場したSUV系のスー パーハイトワゴンは、アクティブなスタイルや機能性の高いインテリアなどで一気にブレイクしました。
ところが、「スペーシア」が23年にモデルチェンジすると「スペーシア ギア」は現行モデルのままでした。 しかし先日、満を持して2代目がデビューしたのです。軽スーパーハイトワゴンに新たな風を吹き込んだ「スペーシア ギア」は、2代目になってもその魅力は健在で、巻き返しが期待されます。
次は登録車も含めた総合ランキングで4ケ月連続で首位をキープしている「N-BOX」の派生モデル 「JOY(ジョイ)」です。デザインなどにSUVの要素を取り入れ、アウトドアを意識しています。専用のフロ ントグリルやバンパーを備えるほか、内装は汚れが目立ちにくいチェック柄としています。また、シートをフルフラットにできることも特徴です。軽乗用販売では断トツの人気を誇る「N-BOX」の派生モデルだけに期待が膨らみます。ただ、この市場では最後発だけにライバルと同じような方向性で目新しさはない点が気がかりです。
【三菱自「デリカミニ」は好調に推移。
ダイハツの「タント ファンクロス」は」やや劣勢】
実は現在、この市場を引っ張っているのは、三菱自が23年5月に発売を開始した「デリカ ミニ」です。三菱はアウトドアのイメージが強いミニバン「デリカ」のブランド力も活用したことで功を奏しました。ちなみに今年は6月中旬までに約4万 1000台を販売しています。今後もこの「デリカ ミニ」がこの市場を牽引すると思われます。
最後は「スペーシア ギア」の対抗馬として22年10月に発売が開始された「タント ファンクロス」です。この車の最大の魅力といえば、ピラーインドアの「ミラクルオープンドア」。助手席側のピラーを無くしたことで、大きな荷物の積載が容易になり、 乗降性も大幅にアップ。さらに、アウトドアシーンではさまざまな使い方もできることで根強い人気があります。ただ、認証不正の問題が、未だに尾を引いている部分もあり、他の3車種と比較するとやや分が悪いと言えそうです。
自動車生産台数実績過去5年間との推移と2024年上期(1~6月)実績
ここがPOINT!
実は最近まで24年新車販売台数について、前年(477万9085台)の1割減の430万台まで落ち込むと見込んでいましたが、現時点では450万台前後に止まるのでは修正しています。その要因としては、不正のあった車種が9月までにすべて生産を再開していることと、そして今回紹介した近年人気が高いSUV系スー パーハイトワゴン市場でラインナップが整ったことです。この市場の絶対数は決して多くはありませんし、販売実績が反映されるのはこれからですが、年末に向けて、市場に勢いを生み出し期待が持てます。
2 中古車流通のあれこれ
【廃車買取価格や低年式車の中古車輸出に影響する鉄スクラップ相場の動向】
新車ディーラーやオークション会場、また大手中古車販売店の中には、リサイクル企業と業務提携し、定期的に廃車を供給するケースがあります。これは買取価格が台当たりで一 律決められているようです。最近、この供給している企業数社から、「リサイクル企業から価格改定(値下げ)の要請があった」との声が多く聞かれます。これは鉄スクラップ相場の動向 による影響のようです。また近年は、低年式車の輸出が拡大し、鉄スクラップの原材料となる車両自体が海外に流出してしまっているという窮状があります。このように鉄スクラップ相場の動向と中古車市場には深い関わり合いがあります。今回はこの件についてレポートします。
【鉄スクラップ相場の急激な暴落は為替と「ビレット」による影響】
リードで述べたリサイクル企業からの価格改定の要請は、8月以降の鉄スクラップ相場の暴落に起因しているようで す。鉄スクラップ事業者でつくる関東鉄源協同組合が開催した8月契約分の輸出入札で、平均落札価格は1トン4万7956円と前月(5万2168円)から8.1%も下がり、さらに9月になると4万2720円まで下がって、7月対比では 18.2%と一気に下降しました。この価格は22年8月以来の最安値のようです。国内相場は輸出価格に連動します ので、大きな痛手となりました。
この要因としては、二つ考えられます。一つは為替の影響です。輸出に関してはドル建てで取引されるため、円相場 が円安に振れればよいのですが、7月まで1ドル=161円であったのが、8月に入って150円割れとなり、一時9月11日には141円台まで円高に急騰した過程で国内のスクラップ相場は大きく下がりました。
もう一つの要因が、中国が東南アジアに「ビレット」とよばれる鉄鋼の半製品の輸出を増やしたことが挙げられます。 「ビレット」は鉄鋼製品になる一歩手前の半製品で、溶かして成分調整した鋼を四角柱状に成型したものですが、鉄鋼メーカーとしては、これを仕入れて製品に加工すればエネルギー消費の大きい電気炉を動かしてスクラップを溶かす手間が省けます。このビレットを中国が東南アジアやトルコなどに大量に輸出したことで、鉄スクラップの需要は落ち込み相場が下がりました。
2024年関東鉄源落札価格推移
【鉄スクラッブ相場を阻害していた要因が解消し、 年後半は回復が期待】
しかしながら、ここにきてこの中国の半製品が手に入らなくなりつつあり、また為替も再び1ドル=150円前後まで円安に振れていることから、鉄スクラップの引き合いが強まっています。関東鉄源協 同組合が開催した10月契約分の輸出入札では、平均落札価格は1トン4万5680円と前月から2960円(7%)上がり、3カ月ぶりに前月比で上昇しています。
鉄以外にも自動車からリサイク ルできる銅やアルミの相場も鉄相場に先行して上昇しています。 従って、今後は資源関連の相場は上向いていくと予想されます。 ただ、リサイクル企業が再び買取価格を引き上げるまでには、もうしばらく時間は掛かるのではないでしょうか。
2001年から2023年までの23年間の輸出相手先国別契約比率
ベトナムと韓国で過半数を占める意外な需要!!
ここがPOINT!
リサイクルされる車両と、中古車輸出されてしまう低年式車は競合してしまいます。特に近年は、この輸出需要が高まり、本来資源としてリサイクルされるべき車両が海外に流出してしまっていることが問題のようです。今年は7月までコンテナ価格が高騰し、低年式車の輸出は低迷していました。しかし現在は7月の半値まで下落しています。今後は再び低年式車の輸出が増えていくことが予想される中、鉄スクラップ相場の動向が気になるところです。
3 どうなってるの中古車輸出
【ロシアの現地最新情報(前半)】
2022年2月のウクライナ侵略以降、観光はもちろんのこと、ビジネスでもロシアに渡航する日本人は激減しています。数少ない渡航者に対しても外務省は危険レベル3の渡航中止勧告を出してい ますが、そんな中、10月初旬に業界関係者がウラジオストクを訪れ、現状の市場調査を強行しました。今回、匿名を条件に、話を聞くことができたので、最新のデータも併せ、ロシアの最新現地情報を次回に渡り、2回連続でお伝えします。
【ロシアの新車市場は、ロシアと中国のブランドで寡占化が進む】
ロシアは日本が経済制裁をしている国ですから、その国に入国することは容易ではありません。入国審査に関しても、日本人であることから、すべての入国者の審査が終わるまで控室で待機させられた挙句、上級審査官から直接審査を受け、さらにビジネスの相手先に電話をかけ、裏を取ってからの入国許可となったようです。
それでも何とか入国し、ウラジオストク市内に向かう途上の郊外に、以前からあった新車ディーラー街に立ち寄っています。看板自体は日本を含め、西側のブランドは外されてなく、以前と変わらない景色なのですが、展示車は圧倒的に中国車で占められていたそうです。それも奇瑞汽車(チェリーモーター)の新車(ガソリン車)が目立っていたとのことでした。
あと、このディーラー街で興味深かった点として、3300系のランドクルーザーや150系のプラドの 新車が数台展示されていたディーラーがあったとのことで、これら展示車は、ほぼ左ハンドルで、恐らく中国からの輸入ではないかと推測してい ました。また唯一、その中に1台だけ日本から第三国を経由して輸入されたと思われる右ハンドルの300系が展示されていたとのことで、ちなみにプライスは1400万㍔、日本円でなんと約2200万円。この価格は現在現地では新築ブームとのことですが、コンクリート打ちっぱなしの 新築マンションの価格とほぼ同じとのことでした。
あくまでも今回は極東地域での話ですが、表③で示したように23年のロシアの新車市場については、ロシアと中国のブランドが91.5%を占め、撤退が遅れたトヨタと韓国のブランドがわずかに販売されましたが、今後は益々ロシアと中国のブランドが占有していくことは確かだということを、実感したようです。
表③ ブランド別2023年ロシアの乗用車新車販売台数
【非規制対象車、規制対象車ともに、引き続き日本の中古車需要は拡大傾向】
ところで、肝心の中古車ですが、一言で言って、中古車市場の「グリーンコーナー」の展 示車や市内を走る車をみても、侵略前とまったく変わらず、規制対象車のHVをはじめと して、日本の右ハンドルの中古車が圧倒的な占有率を誇っていたということです。 特に今回、日本から直接輸入された軽の中古車(非規制車)や、恐らくモンゴルあたりを経由したと思われる日産のノートeパワー-やセレナeパワーなどをよく目にしたとのことで した。
表① ロシアへの中古車輸出実績 2023vs2024(1月~8月)累計比較
※23年の1月~8月までの実績には、規制対象車が含まれている
表② ロシアへの非規制対象車排気量別輸出台数 2023vs2024(1月~8月)累計比較
※23年の1500~2000ccには一部規制対象車が含まれる
ここがPOINT!
データ的な裏付けとして、今年8月までの日本からロシアへの中古車輸出台数累計(表①、表②)をご覧いただきたい。今年は非規制車のみで13万2217台が輸出されました。
それに対して昨年は規制車も輸出されていたので、16万9311台の実績があり、そこから比較すると前年比78.1%と大きく割り込んだように見えますが、実際には昨年の実績から非規制車だけを拾い上げてみると9万3270台で、その比較であれば141.8%と逆に大きく上乗せしていることがわかります。
また裏付けをとるのは至難の業ですが、現地で規制車のHVの需要が引き続き旺盛であることが判明したことから、ほぼ確実に第三国を経由して、日本発の大量の規制車が輸入されていることは明らかです。以上のようなことから、「日本の右ハンドルの中古車が圧倒的な占有率を誇っていた」という話と合致します。また「この勢いは今後しばらく止まることはなさそうだ」と現地に赴いた関係者は語ってくれました。
2024年11月号