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大きなターニングポイントに差し掛かっている自動車産業にフォーカスした情報をタイムリーにお届けします。
執筆・編集:特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所 理事長 中尾 聡
▼目次
【2025年乗用車メーカー各社注目の新型車】
【異次元だった24年中古車相場をさらに上回る展開に!!】
【大手商社系列の中古車越境ECサイト運営会社の取り組み】
1 自動車流通のトレンド
【2025年乗用車メーカー各社注目の新型車】
今年は秋に「ジャパンモビリティショー」が開催されます。また認証不正問題によって販売が延期されていた新型車がいよいよ投入されるなど、今年はメーカー各社の新型車や一部改良車が例年に比べて増えることが予想されます。これによって景気や個人消費の回復度合いにもよりますが、代替えが促進され、新車販売の拡大に繋がると期待されます。今回はメーカー各社の期待される新型車にフォーカスしてみます。
自動車メーカー各社が今年投入を計画している新型車予想
(マイナーチェンジ・追加・海外発表も含む)

【トヨタ自動車】
トヨタ自動車で今年量販が期待できる新型車としては、やはり人気のSUV「RAV4」の6代目ではないでしょうか。現行モデルは19年で5年以上が経過しています。6代目は内外装のデザインを刷新、パワートレインの進化、先進安全技術の強化など、多岐にわたる改良が施されるようです。従来の力強さとタフさを維持しながら、より洗練された都会的なSUVへの進化が期待されます。
また今月から新世代クラウンシリーズ第4弾となる新型「クラウンエステート」が発売されます。本来であれば、23年末の発売予定でしたが、それが24年7月に延期され、それも更に延期となって、やっと今月発売に至っています。
これ以外にトヨタが年内に予定している新型車としては、「ランクルFJ」や「ハイラックス」など、また「ハリアー」「ヴォクシー」など多くの車種で一部改良が行われるようです。
【日産&ホンダ】
日産はLサイズミニバンである「エルグランド」が今年後半に新型車が投入されると予想されます。現行モデルは10年に発売されたモデルが販売され続けており、プラットフォームが古いことやハイブリッドのe-POWERを搭載していないことから、近年は売れ行きが低迷しています。新型「エルグランド」は、ボディサイズがやや拡大され、ライバルであるトヨタ「アルファード」や「ヴェルファイア」と同程度の大きさになると予想されています。それ以外では、「キックス」やEVの先駆け「リーフ」の新型車が投入されるようです。
今年話題性の高さから言えば、ホンダが今秋に販売を予定している新型スポーツクーペ「プレリュード」に注目が集まります。スポーツカーとして一世を風靡したプレリュードは01年に生産を終了していましたが、今回6代目となる新型が約四半世紀ぶりに新世代のHVとして復活を果たします。それ以外では軽自動車「N-ONE」をベースにしたEV「N-ONE e:」が発売される予定です。
【ダイハツ&スズキ】
昨年、認証不正問題によって、年間の販売台数を前年から4割近くも減らしたダイハツは、今年年央に発売予定の新型「ムーブ」で巻き返しを図ります。ちなみにこの新型「ムーブ」も23年5月には受注を開始していた車で、やっと販売に辿り着きそうです。注目すべきポイントは、ムーヴの派生車種である「ムーヴキャンバス」と同様に、車高が1700mm以下でありながら後席側にスライドドアが採用される点で、スライドドアを備えながらも130万円台の手頃な価格帯のグレードが用意されると予想されています。
スズキは1月30日に新型「ジムニーノマド」を発売しました。予想を大幅に上回る約5万台の注文が殺到し、発表から5日後の2月3日に受注を停止する事態になっています。あと年後半にスイフトをベースに開発されたスポーツモデルの「スイフトスポーツ」が発売予定です。
【マツダ&スバル】
マツダは今秋に 「CX-5」の新型車が投入されるようです。ボディサイズは現行型とほぼ同じになる見込みですが、新しいプラットフォームが採用されるようです。また10月には「MAZDA2」の新型車が予定されてます。
スバルも今秋「フォレスター」の新型車が投入されます。プラットフォームはスバルのツーリングワゴン「レヴォーグ」と共通で、ボディ剛性が向上しています。車内の広さは現行型とほぼ同じですが、内装の質感が向上している点が特徴です。
ここがPOINT!
25年の新車市場は、今回ご紹介したようにメーカー各社が、新型車や一部改良車を多く投入することや、別段昨年のようなマイナス要因も見当たらないことから、大幅に改善され年間の新車販売台数は480万台まで回復を遂げると見ています。しかしながら、近年急速に進む人口減少と少子高齢化から市場の縮小が避けられない現状では、今年の実績がピークアウトになるのではと懸念しています。
2 中古車流通のあれこれ
【異次元だった24年中古車相場をさらに上回る展開に!!】
今年最初のレポート(VOL,62)の中古車の項目で、「25年は新車供給が正常化し下取り車の発生量も増加に転じることから、異常とも言えた中古車相場は落ち着きを取り戻すでしょう」とレポートしました。しかし、そこからわずか2ケ月しか経過していない段階ですが、相場は落ち着きを取り戻すどころか、異次元と言われた前年をさらに大きく上回っています。今回はここまで予想を覆している相場高騰の要因を探ってみます。
【中古車供給量は想定の範囲内】
まずは毎度お馴染みになっていますが、(株)ユーストカーのオークション落札価格7日間平均移動のグラフをご覧ください。今年は異次元だった24年よりさらに10万高い98万円でスタートし、その後現在まで(2月の第2週)10万円高で、異次元をさらに超えた異常な状況になっていることが認識できます。
こうした高騰の第一の要因としては、中古車流通量が改善されていないことだと思われます。1月の新車販売台数(登録車+軽自動車)は37万6255台で前年比12.4%増と23年10月(同10.7%増)以来、1年3ケ月ぶりの二桁伸長となりましたが、実際に昨年の1月は認証不正問題によって、新車販売が大きく落ち込んだ時期ですから、当然と言えば当然なのですが、ただ、ここで発生した下取り車がすぐにオークションで流通されるわけではなく、あくまでも前述の実績は登録ベースであり、納車までタイムラグが生じますし、さらに下取り車がオークションに出品されるには3月中旬頃まで待たなければなりません。従って、現在流通している中古車は、新車販売が低調だった昨年11月、12月の下取り車が中心なので、現時点では供給量は改善されていないのですが、これはあくまでも想定内のことです。
中古車相場7日間平均移動推移

【スリランカへの中古車輸出が5年ぶりに復活し、相場高騰に拍車を!!】
供給量が想定内であるのに対し、これだけ相場が高騰しているというと言うことは、要するに需要が想定以上にあると言うことです。国内需要に関しては、通年で最も需要の高い時期ではありますが、年々マーケットは縮小している中、別段今年が突出しているわけでもありません。やはり、現在相場をこれだけ押し上げているのは、旺盛な中古車輸出の需要によるものです。
近年、相場を押し上げているロシアは、昨年後半からリサイクル税の引き上げや㍔安によって、一時的に台数を減少させていましたが、思ったより影響は限定的で依然底堅い需要が見込まれていますし、年明けから、高年式高額車需要の高いマレーシアやバングラデッシュが好調な勢いを示しています。
また、5年間日本からの中古車輸入を禁止していたスリランカが、いよいよ2月に解禁となりました。年式規制としては初度登録から3年未満で、排気量別では1500CC以下の車種が人気のようです。実際に、中古車が輸出され始めたのは、つい最近のことですが、仕入れはすでに年明けから始まっていて、対象年式のヤリス、ワゴンRやアルトのマイルドハイブリッド、またフリードハイブリッドなどは、2月初旬の相場が年始と比較して、一気に上昇するなど、すでに相場高騰に拍車を掛けています。同国では、半年後に外貨準備高の状況によって見直すとしていますが、月間5000台、年間で6万台のポテンシャルのある国であり、今後の動向を注視する必要がありそうです。
ここがPOINT!
中古車市場に大きな影響を及ぼす新車販売の状況ですが、前項でも申し上げている通り、今年は正常化して480万台の新車販売が見込め、中古車市場も潤うと考えていますが、最近、最前線である新車ディーラーに話を聞きますと、この間、長らく受注停止になっていた車種が、年明けに再開されても、そのあと生産の状況によって、再び受注停止になる車種が意外と多いとのことです。今年、本当に正常化するのか若干不安になってきているところです。
3 どうなってるの中古車輸出
【大手商社系列の中古車越境ECサイト運営会社の取り組み】
近年、飛躍的な成長が続く中古車輸出業界に大手企業が本格的に参入し注目されています。今回、そうした注目企業の一社である豊田通商株式会社(本社:名古屋 貸谷伊知郎社長)のグループ企業で、中古車輸出のプラットフォームである越境ECサイト「Carused.jp」を運営する株式会社カーペイディーエム(本社:渋谷区)を訪ね、髙原陽藏社長に、豊田通商グループにおける同社の役割や今後の展開について話を聞いてみました。
【グループが持つ経営資源を有効に活用し、中古車輸出台数が飛躍的に拡大】
カーペイディーエム社の創立は09年ですが、20年に豊田通商との間で資本提携が行われ、その後2度の追加出資を経て、23年2月にグループ傘下として正式に加わっています。20年の資本提携のニュースは、当時、筆者も強く印象に残っています。何故ならば、前年の19年にも豊田通商が、アフリカ全54ケ国を視野に、現地で発生する下取り車や輸入中古車を点検、整備した上で販売する認定中古車店「オートマーク」の展開を発表していたこともあって、大手商社の中古車輸出に対する本気度が伝わったからです。
さて早速、グループ化したことで、どのようなことが以前と比べ大きく違っているのか聞いてみました。髙原社長は、『端的に言えば、グループが持つ経営資源であるヒト・モノ・カネ・データ・ブランドと言った5大アセット(資産)を有効に活用できることにある』と言います。そして具体的な最近の事例として、昨年10月からスタートした「TOYOTA TSUSHO AUCTION(以下TTA)」による「Carused.jp」への情報提供サービスを挙げました。これは豊田通商が国内で提携しているオートオークション(AA)企業の出品車両情報を「Carused.jp」に掲載し、これを海外のバイヤーが閲覧、さらに入札ができ落札まで可能にする画期的なサービスのことです。これによって同サイトの掲載台数は、一気に倍増し、それに伴って、輸出台数、売上とも、ほぼ垂直的な上昇になっています。
【中古車輸出を起点に廃車ビジネスまで見据え、循環経済の実現に向けて】
今後の展開については、親会社が保有するネットワークで横展開していく構想があるようです。要するにグループが保有する海外ネットワークで発生した下取り車やリースアップ車と言った中古車を「Carused.jp」に掲載させていくという考え方です。確かにケニアで発生した中古車を「Carused.jp」に掲載し、ケニアのバイヤーが輸入車ではなく即納できる選択肢があれば、コストや納車日数は大幅に削減され、また前述のようにグループでは、すでに中古車を点検・整備して販売するインフラが域内に整っていることから、バイヤーは安心して購入することができます。
さらに、同社の構想には、中古車の供給にとどまらず、下取りや周辺のファイナンス、保険、部品・用品からメンテナンスサービスに至るまで、日本から輸入された中古車を含め、中古車を基軸としたバリューチェーンの構築を描いています。また、こうした取り組みをすることにより、トレーサビリティ(追跡能力)を追うことができ、それによってその先にある廃車ビジネスにまで見据えています。髙原社長は『最終的には、廃車から発生する資源を自動車関連メーカーに供給することでサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に貢献したい』と力強く語ってくれました。

カーペイディーエム社 髙原社長(写真右)と吉田圭取締役(写真左)

カーペイディーエム社が提供するTTAのトップ画面
ここがPOINT!
今回の取材で髙原社長は『日本の大事なアセットである中古車は、現状では適正に評価されていないのではと感じることが多々ある』と言います。その背景には“中古車”という商品の性格上、いくら透明化を訴求しても買い手にとって、不安が付きまとうからで、その不安を払拭するには、やはりグローバルな展開であっても「売りっぱなし」はダメだと考えています。『1台の中古車を追い続け、お客様に喜ばれ選ばれる付加価値を提供し、最後には社会貢献に繋がるような取り組みを具現化すれば、日本の中古車はもっと高い評価を受けるだろう』と締めくくりました。同社のこうした取り組みはグループの成長、発展はもとより、中古車輸出業界全体の健全な発展に繋がるのではないでしょうか。
2025年3月号